もともと、契約書というものをつくらなくても契約は成立します。
ビジネスでも、口頭で仕事の依頼を受けて、額も口頭で決めて、仕事を行うということは良くあることだと思います。
よく請負契約等で、注文者が注文書を、受注者が請書をファックスして、それで受注の合意ができたとして仕事を開始することがあります。
このような注文書や請書というのは、契約書と違うのでしょうか。
もともと、すべての契約というのは、申込とその申込に対する承諾というもので、成立するとされています。
例えば、建築請負の第1条で、「注文者はA工事をする」、第2条で「工事代金は200万円とする」とされていて、契約書に注文者と受注者の社名が記載され社印が押されているとします。
この場合、法的には、契約書第1条と第2条で、発注者が受注者にA工事を200万円で施工することを申込み、受注者がこれに応じた、と考えることになります。
契約などで注文書や請書をそれぞれにファックスする場合、注文書に、工事内容と代金が書かれているとします。
この場合、その注文書は、工事内容と代金額が示された請負契約の申し込みになります。
その上で、請書がファックスされることで、法的に、受注者は注文書の工事を行うことに承諾したと評価されることになります。
注文書と請書が二枚揃うと、書面で工事内容と工事代金が特定され、申込、承諾もそれぞれあることになるので、契約書があるのと同じということになります。
注文書と請書が二枚揃えば、裁判でも立派な証拠となります。
契約書と一つ違うのは、契約書はそれのみで契約の証明書(裁判での証拠)となりますが、注文書と請書は二枚揃って初めて契約の証明書(裁判での証拠)となるという点です。
もともと、契約書というものをつくらなくても契約は成立します。
ビジネスでも、口頭で仕事の依頼を受けて、額も口頭で決めて、仕事を行うということは良くあることだと思います。
ある取引を、契約書を作らず口頭でしたとします。
この場合で、例えば代金不払いなどの問題が起きても、民法や商法という法律が適用されて、契約書がなくても問題は一応公平に解決されることになっています。
それでも、中小企業様などが契約をしようとすると、取引先から契約書の締結を求められることがあります。
これはどうしてだと思いますか。
私が顧問先企業から頼まれて契約書のチェックをすると、当たり前のことですが、取引先が作った契約書は大抵その取引先に有利に作ってあります。
例えば、東京の築地市場の移転問題で、東京都と東京ガスの豊洲の土地の売買契約書には土地に瑕疵(土壌汚染などの問題等)があっても、東京ガスはその責任を免除されるという規定が設けられていました。
本来は、民法の規定により、土地に直ぐには発見できないような土壌汚染があった場合、東京都は売買契約を解除できたはずでした。
しかし、瑕疵の責任の免除規定があるため、東京都は土地の売買契約を解除できません。
このまま東京都が豊洲の土地を有効活用できないままですと、東京都としては大損をしてしまうことになります。
東京都は税金で運用されているため、倒産などの問題にはならず、せいぜい責任者が責任を負うということで済みますが、仮に築地の売買契約が民間企業の問題だとしたら、プロジェクトの大きさからして倒産問題になりうる事柄です。
逆に、東京ガスは汚染のある土地を売り抜けたということで、大きな得をしたと言い得ます。
東京ガスが、土地に土壌汚染があることを知りつつ土地を売ったとまでは思えませんが、東京ガスは後で売買契約を解除されるリスクに備えて、瑕疵の責任を免除する規定をあえて契約書に入れたのだと思います。
東京都と東京ガスの豊洲の土地売買契約の問題は契約書を結ぶ意味を考えるための良い素材となります。
本来であれば、東京都は民法の規定で欠陥のある土地ということで契約を解除できたはずなのに、それが契約書の規定によってできませんでした。
契約書は、法律の本来の原則を修正して、一方を有利に扱うことが出来るのです。
中小企業様でも、取引先の会社が契約書を送ってきたら要注意です。
その契約書はかならず取引先に有利に作られてあります。
場合によっては、常軌を逸するような規定が入っているかもしれません。
このような場合に備えて、取引先から契約書が送られてきた場合には、専門家に必ずそれをチェックしてもらうことをお勧めします。
ビジネスで取引をするとき、契約書を締結することがよくあります。
しかし、そもそも、どうして契約書を締結するのでしょうか。
何故結ぶかというのを考えるとき、そもそも契約書とは何かを考えた方がわかりやすいかもしれません。
仕事というのは、契約書がなくても受けることができます。
別に契約書がなくてもいいわけです。
例えば、私のような弁護士業であれば、裁判の仕事を受けるのに何十万円と口約束をして、それで依頼を受けることもやろうと思えばできます(ただ、弁護士は弁護士職務基本規程というものがございまして、仕事を受けるときは契約書を作ることを義務付けられています)。
しかし、私は口約束で仕事を受けることは絶対にしません。
私が仕事を受けるとき、契約書を作る理由は主に2つあります。
契約書を作る第1の理由は、報酬について「言った,言わない問題」を回避する点です。
口約束というのは、しばしば、後で「言った、言わない問題」を引き起こしてしまいます。
「言った、言わない問題」というのは、何かの口約束をした後、トラブルになって、「あのときにああ言った。」「言っていない。」と当事者で言い分が食い違う問題です。
「言った、言わない問題」の中でも一番深刻なのは、代金に関する事柄です。
契約書を作っておかないと、仕事をして後で報酬を請求したところ、後で代金について「言った、言わない問題」が発生してしまう可能性があります。
こちらが立場的に弱い場合、代金や報酬を値切られてしまう恐れもあります。
ですが、契約書を作って書面の中で報酬について決めておけば、「言った、言わない問題」が発生するのを回避できます。
私が仕事を受けるとき、必ず契約書を作るのは、報酬について「言った、言わない問題」が発生するのを回避する点にあります。
また、契約書には、仕事をどこまでやるかを限定する意味もあります。
これが契約書を作成する第2の理由です。
これは、私のような仕事で特に問題になるのですが、契約書で仕事の範囲を決めておかないと、クライアントから同じ代金で際限なく仕事をお願いされてしまう可能性があります。
そこで、契約書でどこまでの仕事をやるかを決めておきます。
書面で仕事の範囲を決めておけば、クライアントからそれ以上の仕事を求められてもお断りすることができます。
このように、契約書には仕事の範囲を限定するという機能もあります。
契約書は、何をいくらでやるかを書面で確定し、後で争いとならないようにするところに、そもそも作る意味があると思います。
ですので、契約書を作る根本的な意味は以下のようなものです。
① 代金を書面で確定すること
② 仕事の範囲を書面で確定すること