採用について
採用段階で気を付けること
会社に対し不当な請求をしてきたり、会社とトラブルを起こしたり、人間関係で問題を起こすような人を雇ってしまうと、後で大変な労力を必要とします。
ただ、問題のある社員だからやめてもらいたいと思っても、日本の労働法制の元では、容易に労働者を解雇できません。
よって、大切なことは、採用段階で、将来トラブルを起こすような社員を雇用しないことです。
中小企業では、中途採用ということも比較的多いと思います。
皆さんは中途採用の面接ではどのような点に注意されていますか?
履歴書では、職歴を重視する経営者や人事の方が多いと思います。
職歴で、何度も転職を繰り返している人は、自己中心的で人間関係でトラブルになりやすい傾向を持っていることが多いように思います。
転職を繰り返している人は、立派な経歴でも、注意が必要です。
また、その社員が前の会社をどんな辞め方をしたかというのも知っておきたいところです。
もしかしたら、前の会社に残業代請求をしているかもしれませんし、面接をしている今その時に、残業代請求の裁判をしている最中ということもあり得ます。
また、人間関係でトラブルを起こして辞めたのかもしれません。
いずれにせよ、前の会社の評価というのは、取得できるのであれば、当該社員を採用するにあたって、非常に有益な情報となります。
では、前の会社をどのようにやめたかを知るにはどうすればよいでしょうか。
これには非常に効果的な方法があります。
端的に、「前の会社に聞く」という方法です。
ただ、応募者に何も言わないで聞いたら問題が生じてしまうかもしれないので、応募者から前の会社に聞くことについての同意書を貰います。
その上で前の会社にどんな人物でどんな辞め方をしたか聞きます。
同意書のフォーマットはこちらです(クリックいただくとフォーマットをダウンロードいただけます)。
前の会社に問い合わせるという方法は、日本ではあまりなじみがありませんが、欧米では採用面接を受ける者が、面接のときに前の会社から本人がどういう人間であるかを書いたレファレンスという書類を持っていくのが一般的です。
世界的に見れば、前の会社に応募者の働きぶりなどを聞くというのは非常識ではないので、気にせず積極的に聞いていってよいと思います。
人物像や辞め方の調査をしたうえで、慎重に採用するようにしましょう。
正規雇用する前に試用期間を設ける
応募者の面接をして雇うときも、いきなり正社員として雇うのは控えた方が良いでしょう。
中小企業経営者の皆様は、解雇を簡単にできると思っているかもしれません。
経営者の皆様からよく聞くのは、「1か月分の賃金を払えば解雇できるのですよね」という話です。
しかし、これは誤解です。
解雇できる場合であっても、解雇するには1か月分の賃金を払う必要があるというのが正しいです。
そして、そもそも「解雇できる場合」が限定されています。
具体的には、横領などの刑事事件を起こした場合や無断欠勤を30回繰り返した場合などです。
例えば、就業規則に職務に適した能力を持っていない場合には解雇できると書いてあるとします。
そして、問題社員がノルマを達成できないなど、その人は実際に職務に適した能力を持っていませんでした。
では、就業規則に基づいて解雇できるかというと、残念ながらまずできません。
就業規則のとおりに解雇できると思ったら間違いです。
この辺りの理解は、社労士の先生などでも誤解している方が多いので注意が必要です。
解雇はよほどの悪事をしたときだけできると思っておいてください。
解雇が制限されている以上、雇うときにはいきなり正社員にせず、まずは必ず試用期間を置きます。
既に試用期間を設けているという会社も多いと思いますが、期間は何か月くらいにしていますか。
2か月とか3か月という会社が多いのではないでしょうか。
法律では、試用期間は何か月までと制限されている訳ではありません。
労働法学者の見解などによると1年位までは有効と考えていいようです。
最低でも、試用期間は6か月程度設けた方がよいと思います。
もちろん、試用期間であることを、契約書で残すようにしなければなりません。
口約束だと正社員として雇ったと言われかねません。
試用雇用の契約書はこちらです(クリックいただくとフォーマットをダウンロードいただけます)。
試用期間中に問題行動が見られたらどうするか
6カ月の試用期間中、その社員に身勝手な性格がみえたり、能力不足を感じたりした場合、どうすればいいでしょうか?
6カ月の試用期間を設けたからといって、6か月間は見習いとして雇用しなければならないというものではありません。
1カ月試用雇用して、その社員に辞めてもらいたい場合、その段階でやめてもらうよう働きかけて大丈夫です。
ただ、試用期間だからといって、簡単に解雇はできません。
試用期間であっても、解雇(正確には解約権の行使となります。)できるのは、例えば会計の知識があるとして試用雇用したのに実際には会計の知識がないなど、客観的に見てその人を解雇するのが合理的と認められるような場合に限定する最高裁判所の裁判例があります。
単に、試用期間であっても、「うちの会社に向いていない」とか、「仕事ができない」というような話では解雇できません。
このようなことから、試用期間中にやめてもらいたいと思ったら、労働者に対し率直に「退職してもらいたい」と言うことがまず取るべき手段となります。
労働者の方でも、試用期間中であれば、「退職してもらいたい」ときっぱり言われると応じてくれることが多いと思います。
ここで重要なのは、やめてもらうにあたりきちんと使用契約の解約合意書という書面を残しておくことです。
解約合意書を残しておかないと、辞めた後解雇されたなどと言われてトラブルになることがありえます。
私の顧問先でも、試用期間中に辞めた社員が解雇されたと言って弁護士をいれてお金を請求してきた事件があります。
実はその事件では、私の顧問先は、辞めてもらう際に解約合意書を残しておきました。
相手方の弁護士に対し、解約合意書を見せると、「知りませんでした。もう請求はしません」ということで請求はやみました。
このように、解約合意書を残しておくことは、後のトラブルを回避するためにとても重要です。