問題社員の解雇をしたい
人手不足が嘆かれている現代において、社員を辞めさせないということは会社経営における大きな課題です。
社員の退職理由の多くが、社内の人間関係に起因しています。
欠勤を繰り返したり、人間関係でトラブルを起こしたり、外回りの時間に遊んでいたり、といった問題行動をし、それを注意しても直らないような問題社員がいたとします。
このような問題社員がいる場合、他の社員は人間関係を苦に退職してしまうかもしれません。
ですから、問題社員にはできればやめてもらいたいというのが経営者側の本音だと思います。
ただ、日本では解雇はよほどのことがない限り有効性が認められません。
有効性が認められないということは、解雇をして、解雇無効の裁判を起こされた場合に、使用者側が負けてしまうということです。
負けてしまうと、裁判をしていた期間の賃金を全て払うことになります。
月額30万円の賃金であれば、解雇後に1年裁判をしていたとすると、360万円を支払わなければなりません。
これをバックペイといいます。
また、解雇は無効なので、裁判後には自社の社員として復帰してもらうことになります。
このように、解雇無効の裁判で負けると、会社としては大ダメージを負います。
解雇はとてもリスクが高いことから、最後の手段として考えるべきでしょう。
では、解雇ができないとすると、会社はどうすればよいのでしょうか。
1.業務指導
問題社員への対応では、文書を出す、文書を求めるということが重要です。
口頭での指導の仕方を誤ると、ハラスメント問題につながってしまうことがあります。
大きな声で叱責すると、単に仕事上の注意をしただけのつもりでも、ハラスメント扱いされてしまうのです。
こういった危険を避けるためにも、問題社員の問題行動は、書面で正していくようにしましょう。
2.懲戒処分
文書での業務指導をしても問題行動が改まらない場合には、懲戒処分を行うようにしましょう。
懲戒処分により、自身の行為が違法であることを理解させると同時に、違法行為があったことを文書で残すようにします。
懲戒処分を行う際のポイントは、以下の2点です。
- 軽すぎず、重すぎずの処分が重要
- 公平性が重要
まずはけん責の懲戒処分を行い、それでも改まらない場合には徐々に重い処分を重ねるようにしましょう。
こういった処分を行っても問題行動が改まらない場合、解雇が有効となる可能性も出てきます。
ここまでしても問題行動が改まらない!
そんな場合には次のステップです。
3.退職勧奨
退職勧奨とは、率直に、退職してくれないかと使用者側から退職を促すことです。
退職勧奨を行う上で重要なのは、シナリオの作成です。
どうして退職してほしいのか、具体的にどういった問題行動があったのかをまとめ、それをもとに退職勧奨を行います。
退職を勧めるにしても、「あの時お前はこんなことを言っただろう」「皆お前とは仕事したくないと言っている」などと、社員を責め立てて強引に退職させるのは望ましくありません。
過去の問題行動について触れるとしても、社員を責めるのではなく、「退職した方が会社にとってもあなたにとっても良い」ということを伝える方が良いでしょう。
退職勧奨が民法上の強迫に当たるとされてしまうと、その退職勧奨によって提出された退職届は無効になってしまいます。
ですから、勧奨の仕方には十分に注意をしましょう。
退職強要といえるほど強引に退職勧奨をしてしまうと、実質的に解雇と同じだとの判断がされてしまいます。
解雇となると解雇無効の裁判を起こされ、負けてしまう可能性が高くなりますから、注意が必要です。
会社からすると、社員に退職を促すのは気が引けるし、むしろ「怖い」と思う方もいるかもしれません。
しかし、場合によっては、社員も「辞めてもいい」と思っていて、会社側からの退職勧奨を機に、円満に辞めてることになる場合もあるので、挑戦してみる価値はあります。
退職勧奨を促しても退職に応じてくれない場合には、解雇を検討せざるを得ません。
ただし、いきなり解雇することはできません。
そこで、この場合、いつかは解雇をするということを前提に、問題行動や職務怠慢について一つ一つ注意や処分を重ねていくことになります。
注意や処分というのは就業規則に基づいて行いますから、就業規則が整備されていることが前提として必要になります。
このような方法は忍耐力が必要ですし、時間もかかります。
会社側としては早々に解雇したいと思うところですが、後で解雇無効の裁判を起こされ、何百万円というお金を請求されてしまうリスクを考えると、直ぐに解雇したい気持ちを我慢して、注意や処分を続けることが必要です。
ここぞという段階まで堪えて、有効な解雇をしないといけません。
なお、解雇はリスクも高いことから、解雇の裁判例を良く知っている専門家の意見を聞いて、適正な手順を踏んで解雇することが重要です。
当事務所で相談を受けた例 その1
<ご質問>
当日、調子が悪くなったという理由で当日の欠席を繰り返す社員がいる。
上司が注意しても態度が改まらない。
お客様のお気に入りの社員で解雇等をしづらい状況である。どうすればよいか。
<当事務所の回答>
当日欠勤の理由は病気ということであったので、その事実関係を確認するため、病欠が続いた場合に診断書の提出をお願いしてもらいました。
そのお願いをしてから数日後、当該社員は退職しました。
<弁護士の視点>
ご相談いただいた会社さんは、当該社員から当日病欠の申し出があった場合に有給扱いにしていました。
しかし、社員から当日の朝、「病欠したい」と連絡があって欠勤した場合に、その欠勤を有給扱いにするかどうかはそもそも一旦考えるところだと思います。
有給については、例えば、社内規定で「有給申請は2日前までにしなくてはならない」といった規定があるよう場合には、当日の朝病欠したいと言われてもそれを有給扱いにしなくても良いということになります。
有給扱いにしないのであれば、「欠勤」となります。
月の給料から日額を計算してその日額を差し引いて、その月の給料は支給することになります。
このような扱いをすることも安易な欠勤を防ぐことが出来るのでお勧めいたします。