メンタルヘルス
メンタルヘルスとは精神面における健康のことを指します。
メンタルヘルスの不調というと、精神疾患のみではなく、心身症や出勤困難、職場での人間関係上のストレスや仕事上のトラブルの多発、多量飲酒など幅広い意味を持ちます。
メンタルヘルスの不調は、自傷行為や自殺など、深刻な問題に発展する場合も少なくはありません。
会社の業務が原因で起こった不調だとすると労災認定されたり、損害賠償を起こされたり、会社としても大きな打撃を受けることになります。
会社全体の効率性・生産性に影響を及ぼすことがあるのに加え、会社自体が成り立たなくなってしまうという最悪の事態も考えられます。
一度ブラック企業の烙印を押されてしまうと、社会的にも企業イメージが著しく低下してしまうからです。
メンタルヘルス対策
メンタルヘルス不調の原因としては、長時間労働やパワハラ、セクハラなどがあげられます。
こういった社内環境を改善することが必要になりますが、メンタルヘルス対策としてストレスチェックがあげられます。
従業員が常時50名以上の事業所では、1年に1回のストレスチェックが義務づけられています。
ストレスチェックとは、労働者に記入してもらったストレスに関する質問票を集計・分析することで、労働者のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
具体的には、産業医や精神保健福祉士、保健師や看護師などにより、従業員のストレス状態の確認を行い、労働基準監督署に報告する必要があります。
民間のメンタルヘルスチェックをするサービスを会社に導入し、従業員に受けてもらうという方法もあります。
メンタルヘルス不調者を早期に発見できる可能性が高まりますので、実施が義務付けられていない事業所でも、ストレスチェック制度を導入することをおすすめします。
また、日常的に従業員全体にメンタルヘルスケアを推進することも重要です。
会社でメンタルヘルス対策を行っても、どうしても個人的な部分までは踏み込めないこともありますから、会社全体でメンタルヘルスに対する意識を高めて、従業員本人にメンタルヘルスに関する配慮をさせる必要があるためです。
メンタルヘルスの不調による解雇
従業員がうつ病などのメンタルヘルスの不調により欠勤している場合、解雇はできるのでしょうか。
欠勤している以上、解雇はできると考えることは多いかもしれませんが、多くの会社では、休職制度が設けられていることと思います。
休職制度とは、病気(私病=労災でない病気や怪我)により仕事ができない場合に、本来なら解雇できるが、いきなり解雇をするのでは労働者に酷だ、という考えのもと設けられている制度です。
・病気になった労働者について一定期間解雇を猶予するもの
・法律の定めは一切ない
就業規則で、ある程度自由に制度設計ができるため、会社側に有利に作られているものと、不利に作られているものとで差が激しくなっている一面があります。
休職期間満了後、休職の原因となった精神疾患が治っている場合には職場復帰をすることになりますが、治っていない場合には自然退職とされます。
休職期間満了時に精神疾患が「治った」といえるかは、以下のことを、将来にわたり継続的にできるかで判断します。
- 所定労働時間働けるか
→多くの会社が所定労働時間を8時間としている
- 安全に通勤できるか
→妻が車で送迎する場合も可とされる
- パソコンなどを支障なく操作できるか
→工場であれば安全に機械を操作できるか
- 時間外労働を約月20時間できるか
- 国内出張ができるか
①~⑤の判断の重要な資料は、主治医の診断書です。
微妙なケースであっても、患者の意向に基づいて、就労可能という意見を出す主治医も少なくありません。
そのため、主治医とは予め面談をすることが望ましいと考えられます。
また、当該傷病の分野の専門医である、産業医も受診させた方が良いでしょう。
産業医を受診させる場合には、受診命令が出せることを就業規則で定める必要があります。
休職制度における大きなポイントが、従業員の精神疾患による欠勤を会社が認めている、という状態だけでは休職をさせているとはいえないということです。
「社員が休みたいと言っているから、とりあえず数日休ませよう」というだけでは、休職させたことにはならないので注意が必要です。
休職させているというためには、就業規則に基づいて、休職命令を出す必要があります。
日本ヒューレット・パッカード事件(最判平24・4・27)
<事件>
労働者が、実際には事実として存在しないにも関わらず、「約3年間にわたり加害者集団からその依頼を受けた専門業者や協力者らによる盗撮や盗聴等を通じて日常生活を子細に監視され、これらにより蓄積された情報を共有する加害者集団から職場の同僚らを通じて事故に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを受けている」と主張したが、使用者から満足のいく調査結果を得られなかった。
休職も認められず、出勤を促されたことから、当該労働者は上記の問題が解決しない限り出勤しない旨を使用者に伝えた上で、有給休暇をすべて取得した後、約40日間にわたり欠勤を続けた。
使用者は、上記欠勤を理由に当該労働者を諭旨解職とした。
<判決>
諭旨退職処分無効
- 精神科医による健康診断結果などに応じて必要な場合は治療を勧めたうえで処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応をとるべき
- 欠勤理由が存在しない事実に基づくものであることから、その欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして処分をしたことは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとは言い難い
会社に休職制度がある場合には、まずは休職をさせなくてはならず、休職後にも回復しない場合にはじめて解雇することができます。
従業員からのSOSを受けた場合には、とりあえず休ませるだけで済ませず、真摯な対応をとるようにしましょう。
弁護士によるメンタルヘルス対策
メンタルヘルスの不調はいつ起こるのかわかりません。
対策は日々行うべきものであり、会社の制度として整える必要があります。
対策の制度策定をはじめ、従業員の不調を早期に把握した際の対応アドバイスや、会社が行う手続きへの同席や面談を弁護士が行うことも可能です。
メンタルヘルス対策をしたいとはいってもまず何をすればいいのかわからない、不調者に対してどういった対応をすべきかわからない、という場合にも、弁護士が法律に則った解決策を提案いたします。
上野俊夫法律事務所では、従業員支援プログラム(EAP)をご提供しています。
メンタルヘルスに不調を及ぼすのは、何も会社内でのトラブルだけではありません。
家庭内の夫婦関係・介護・相続などの問題、交通事故や怪我から、従業員の心の健康が害され、仕事に影響が生じてしまうことは大いに考えられます。
そんな時に、従業員をサポートできるのが、このEAPというプログラムです。
★EAPについて詳しくはこちら
また、メンタルヘルスの不調を端緒とした労災認定、損害賠償といった問題が起こってしまった場合にも、弁護士が裁判対応をいたします。
従業員のメンタルヘルス対策について気になる点がある方はお気軽にご相談ください。
★当事務所の解決事例
<相談>
新たに有期雇用契約を締結した従業員が、入社後間もなく欠勤を繰り返すようになった。
同従業員は、入社して2か月弱でうつ病と診断され、休職することになった。
休職してから約2ヶ月後、同従業員から会社に対し、医師とも相談しながら近々復職したいとの申し入れがあったが、会社としては、同従業員との間の雇用契約を更新せず終了させたいと考えている。
同従業員との雇用契約を終了させるにはどうしたらよいか。
<解決>
雇止めとすることを文書で通知するようにアドバイスした。
本件の経緯を詳しくお伺いして検討した結果、本件においては、同従業員に対し、雇用期間満了としその後の契約更新を行わないこと(雇止めとすること)を文書で通知する方法がよいと考え、アドバイス差し上げました。
会社は、同従業員と近々面談の予定があるとのことで、同文書の作成のご依頼をいただきました。
文書を作成しお渡しするとともに、もし仮に従業員と面談が叶わない場合には郵送の手配も可能であることをご案内しました。
その後、会社は同従業員と面談し、同従業員から無事に文書に署名捺印をもらい契約終了とすることが出来たとのご報告をいただきました。