「押印してしまったから、もう仕方ない」――無料求人広告の高額請求を諦めてしまう前に

無料掲載をうたうWeb求人広告に申し込んだところ、無料期間の経過後に有料掲載に自動更新されたとして高額な広告料を請求される……
このようなトラブルについて、以前のコラムで業者側の手口と対応方法をご説明しました。
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コラムの掲載後、コラムを見て同様のご相談をお寄せいただく機会がさらに増加したところ、実際にお話を伺っていて気になることがあります。
それは、相談に来られる企業様の多くが、まず「うちが確認しなかったのが悪いのですが……」と切り出されることです。
そして、そう思ってしまったために、請求書が届いてから相談までに数週間が経っていることも少なくありません。
このようなトラブルにおいて、支払わずに済んだかもしれない高額な広告料を諦めて支払ってしまうのは、一番もったいない結末です。
そこで今回は、企業様が相談をためらってしまう典型的な誤解をひとつずつ取り上げます。
「申込書に押印したのだから、契約は有効で争う余地はない」
申込書に押印したという事実は重いものですが、だからといって押印したことによって申込書と規約に書かれたあらゆる条項に同意したことになる、というわけではありません。
まず争点になるのは、そもそも有料の広告掲載契約が成立しているのかという点です。
企業様が申し込んだのはあくまで無料掲載であって、有料契約を申し込んだつもりは一切なかった、という主張は十分に成り立ちます。
それ以外にも、勧誘時の説明と規約の内容が食い違っていた場合には、錯誤や詐欺による取消しを主張する余地があります。
また、勧誘の方法、申込書の作り方、料金の水準、実際の広告効果などを総合すると契約自体が公序良俗に反して無効だ、という構成もあり得ます。
事業者間の契約であっても、一方的に不当な条項について、定型約款に関する民法の規定を根拠に合意の効力を争う議論もあります。
現に、この種の請求について、裁判所が業者側の請求を認めなかった裁判例も出ています(那覇簡易裁判所令和3年10月21日、東京地方裁判所令和元年9月9日。)
結論は個々の事案によって変わりますので、押印したかどうかだけで見通しが決まるわけではありません。
むしろ、押印に至るまでにどんな説明を受けたのかという点が重要になります。
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「規約に小さく書いてあったのだから、読まなかった自分が悪い」
規約をきちんと隅々まで読まなかったこと自体を、業者に対して恥じる必要はありません。
規約が極端に小さなフォントであること、FAXで送られてきて判読しづらいこと、電話では自動更新の説明が一切なかったこと、無料期間の終了が近づいても通知が来ないか、来ても直前であること――これらは、申込者の読み落としを誘うためにわざと設計されたものではないかという疑いを生じさせます。
つまり、読みづらかったという事実は、企業様の落ち度としてではなく、業者側の勧誘方法を問題にする材料として機能し得ます。
ご相談の際には、実際に届いた申込書やFAXの原本やスキャンデータも資料としてお見せください。
「無視して放置すればいい」
最終的に支払わないという判断はあり得ますが、何もせずに放置することはお勧めしません。
督促が続く間に企業様側の主張を整理せずにいると、後から反論しにくくなることがあります。
また、はじめのうちは無視をしていても、業者からの度重なる会社への電話やメールでの連絡により本来の業務が手につかなくなり、疲弊されてしまった企業様からのご相談もよくお寄せいただきます。
そのような事態になる前に、高額請求が発覚したタイミングで弁護士に相談されることをお勧めします。
そして、特に注意が必要なのは、裁判所から書面が届いた場合には期限があります。
支払督促や訴状には、異議や答弁のための期間が定められており、これを過ぎると内容を争えなくなるおそれがあります。
つまり、企業様側が支払い義務がないことを主張できなくなり、相手方の請求内容をそのまま支払わなければならなくなってしまうということです。
業者名で届いた「法的措置を検討します」という通知と、裁判所から届いた書類は、まったく別物です。
もしも裁判所からの手紙を受け取った場合には、その日のうちに弁護士へご連絡ください。
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「弁護士に相談したら減額はしませんよ」と言われた
実際のご相談の中には、ご自身で業者に異議のご連絡をされた企業様に対し、業者がこのように述べたケースもありました。
「今なら多少金額を下げてもよいが、弁護士が出てきたら応じない」という趣旨です。
まず、この発言に法的な意味はありません。
誰に相談するかは企業様の自由であり、弁護士に相談したことを理由に業者が何らかの不利益を課せる立場にはありません。
そのうえで、注目していただきたいのは別の点です。
請求の根拠に自信がある業者であれば、そもそも金額を下げる必要がありません。
減額をちらつかせるという行動そのものが、請求の根拠が確かではないことを業者自身が分かっている可能性を示しています。
加えて、相談される前に多少減額してでも支払わせたいという意図が透けて見えます。
さらに注意が必要なのは、減額に応じてしまうことの意味です。
金額を下げてもらったうえで支払う、あるいは分割で一部を支払うという対応は、契約が有効に成立していること、支払義務があることを企業様の側が認めた形になりかねません。
そうなってしまうと、後になって「そもそも支払義務がなかった」と主張しようとしても、一度支払ったという事実が不利に働くおそれがあります。
このようなトラブルにおける高額請求では、本来、企業様が支払う必要がないものである可能性がありますので、半額にする交渉に乗るより先に、支払義務があるのかどうかを検討すべきです。
もちろん、見通しを踏まえた結果として、和解による解決が合理的な場面もあります。
しかしそれは、相手方から急かされてその場で決めることではありません。
そのため、「弁護士に相談したら減額しない」と言われたときは、その場で判断せずにまずはご相談ください。この言葉が出たこと自体が、弁護士に相談すべき事案であることのサインだと考えていただいても構いません。
なお、そのように言われた日時、担当者名、言われた内容は、その日のうちにメモに残しておいていただけば、後に業者側の姿勢を示す資料にもなりえます。
「弁護士に頼む費用の方が高くつくのではないか」
請求額と対応の内容によりますので一律には言えませんが、この種の請求は数十万円から百万円を超える規模になることもあり、費用に見合わないと決めつける前に、一度見通しを確認していただく価値はあります。
顧問契約をいただいている企業様であれば、支払を拒絶する旨の通知を出すところまで顧問料の範囲内で対応できる場合もあります。
顧問契約をいただいていない企業様でも、まずは弁護士費用の見込みだけを聞く、という目的でのご相談でも構いません。
「経営陣に報告したら、担当者の責任問題になってしまう」
前回のコラムでも触れましたが、この種の申し込みは、無料だからと総務のご担当者が判断してしまったところから始まっているケースも多いです。
だからこそ、経営陣への報告や弁護士への相談が遅れてしまいがちです。
しかし組織として見れば、これは担当者一人の不注意の問題ではありません。
人手不足で採用を急ぐ企業の事情に狙いを定め、無料を強調して確認を省かせる業者側の手口によって意図的に誘導された結果です。
そして実務上、報告が遅れることによる不利益のほうがはるかに大きいです。
無料期間中であれば解約手続で被害そのものを防げますし、請求後であっても早く動けるほど選択肢が残ります。
申込みを止めるルールを整えることと同じくらい、「言いにくいことを早く報告できる」状態を作っておくことが、実質的な防御策になります。
弊所にご相談ください
弊所では、無料掲載期間経過後の高額な広告料請求に関するトラブルについて、広くご相談・ご依頼をお受けしております。
また、弊所は群馬県に所在する事務所ですが、このような求人広告トラブルについては日本全国からのご相談に対応可能です。
「もう押印してしまったので」「請求書が届いてから時間が経ってしまったので」と迷われている段階でも構いません。
支払う前に、まずは一度弊所までご連絡ください。















