事業承継とは何か
最近、事業承継という言葉をよく聞きますが、主に中小企業で問題になります。
大企業では株式が分散しているので、株主が死亡したとしても、移転する株式はほんのわずかです。
ですから、株主の死亡と相続によって会社は特別影響を受けません。
しかし、中小企業ではオーナーが多くの株式を保有しています。
そのオーナーが死亡すると、遺言等がなければ、株式は兄弟に平等に相続されます。
そうすると、オーナーが亡くなった後、会社の実権をめぐって争いが起きる可能性があります。
特に、最近は個人の権利意識が高まっているので、昔なら何も言わなかったような後継者以外の兄弟が自分の権利を主張するというのはよくあります。
そこで、中小企業では、事業承継について取り組む必要があるのです。
ところで、そもそも事業承継というのは何なのでしょうか。
漠然とはおわかりになると思いますが、具体的に何を譲渡するのか、ということを説明します。
事業承継では、事業を譲渡するわけですが、まず、事業が何であるかを明確にする必要があります。
事業はたくさんのものによって構成されています。
会社の従業員、工場、事務所、機械、お客様などです。
私の法律事務所であれば、パソコンや法律の本などが事業を構成しています。
このような様々なものが事業を構成しているのですが、それらは主に2つに分類できます。
1つは、株式です。
会社所有の財産は、株式を持つことによって、間接的に所有することができます。
会社所有の不動産、機械類などは、株式を持っていれば株主が所有していると考えてよいです。
従業員についても,株主が従業員と契約しているとイメージしていいと思います。
事業を構成しているもう1つのものは、オーナー名義の不動産です。
オーナーが会社の事務所の土地を持っていたり、事務所の所有権を持っていたりします。
事業譲渡というのは、株式とオーナー名義の不動産をどのように移転させるかという問題です。
移転させる方法としては、株式や不動産を売買するか贈与することになります。
誰に承継させるか
事業を誰に承継させるかというと、主に3パターンあります。
①家族や親族への承継、②役員や従業員への承継、③第三者への事業の売却(M&A)です。
日本政策金融公庫の「中小企業の事業承継に関するアンケート結果」では、事業承継をどのように考えていますかという質問に対し、以下のような回答になっています。
5割もの企業が親族への承継を望んでいることがわかります。
中小企業で一般的なのは、親族への事業承継だと思います。
ですので、ここでは、主に家族や親族への事業承継の方法を説明いたします。
別のページで②役員や従業員への承継と③第三者への事業の承継の方法や問題点も説明しておりますのでこれらについて興味のある方はこちらをクリックください。
事業承継のポイント
事業承継で最も大事なことは何でしょうか?
それは後継者に株式とオーナー名義の不動産を集中して受け継がせる、ということです。
タイミング的には、できれば社長がお亡くなりになる前に(ご気分を害されたら申し訳ありません)、後継者に株式等を集中するのが望ましいです。
株式等の集中をどのようにするかというと、株式等を贈与または売買をして、後継者に承継させます。
社長が亡くなる前に株式を集中しておかないと、社長が亡くなった後、他の兄弟にも株式が相当数渡ることになります。
場合によっては、後継者が株式の過半数を持てない事態も出てきます。
これでは、後継者が事業を承継するどころか、取締役にすらなれない事態が生じ得ます。
株主総会で取締役を選任するには、出席株主の過半数の賛成が必要だからです。
では、後継者への株式の集中はどの程度すればいいのでしょうか。
後継者への株式の集中は、過半数では足りません。
株主総会で特別決議というのができないと、経営上支障が生じることがあります。
特別決議というのは、議決権を持つ過半数が出席した株主総会で、株主の3分の2が賛成したときに認められるものです。
特別決議では、特定の株主から株式を買い取ったり、取締役を一方的に解任したりできます。
中小企業を円滑に経営するには、この特別決議ができることが必要です。
では、後継者に株式の3分の2を持たせればいいのかというと、3分の2でも足りないように感じます。
なぜかというと、先代の株式の3分の2を後継者に移していたとします。
これは、他の兄弟からすると、後継者だけが相続で優遇されていることになります。
そうすると、他の兄弟から、遺留分を請求され、後継者の株式が少なくなる可能性がありえます。
このような場合も想定すると、社長が亡くなる前に株式の80%くらいは集中できると望ましいです。
一番良いのは、100%後継者に集中させることです。
とにかく、事業譲渡で重要なのは、後継者への株式等の集中です!