横領
証拠固めをして横領の事実を抑えることができた場合、社員に対してどのような措置がとれるでしょうか。
横領した社員にできること1―刑事告訴
まず、社員を刑事告訴して、刑事事件として立件することを考えると思います。
いわゆる会社での横領と言われるものは、業務上横領罪か、窃盗にあたることが多いです。
業務上横領罪・・・業務として客体(お金や物)を預かっている社員が横領したときに成立します。
窃盗罪・・・社員がその客体を預かっていない場合に成立します。
窃盗罪というと軽いイメージがあるかもしれませんが、社員による会社の物品の窃盗は、会社からの社員への信頼を裏切るものであるので、会社外での窃盗に比べて罪は重いと考えます。
- 業務上横領罪の法定刑・・・10年以下の懲役
- 窃盗罪の法定刑・・・10年以下の懲役または50万円以下の罰金
窃盗罪は罰金刑もありうるので、業務上横領罪に比べて法定刑の上では軽いと言えます。
横領した社員にできること2―懲戒解雇
横領という悪質性が高い行為なので、刑事告訴と共に、懲戒解雇という手段に出ることが多いです。
懲戒解雇をして、社員に思い知らせてやりたいと考える方も多くいらっしゃいます。
また、懲戒解雇の場合、退職金が不支給となることが一般的ですので、この点でも、懲戒解雇にメリットを感じられるかと思います。
横領があったらすぐに懲戒解雇できるとお考えの方が多くいらっしゃいますが、これは間違いです。
刑事事件にもなるような悪質な行為があったわけですから即解雇できるはずだという気持ちもわかります。
しかし、刑事事件になった場合、横領された額がどのくらいか、どの程度反復性があるか、動機は何か、会社からの信用をどの程度裏切ったかで、刑は大きく変わってきます。
横領と言っても色々な態様があり、少額で、反復性のない横領行為では、悪性が低いと認定され懲戒解雇ができないこともありますので、注意が必要です。
「懲戒解雇ができない」とは、懲戒解雇した後、社員に解雇無効の裁判を起こされ、解雇無効の判決が下るということです。
解雇無効の判決が出ると、裁判で争っていた期間の賃金を会社が負担することになります。
この重い負担をバックペイと言い、横領で懲戒解雇をするにあたっては、解雇できる事案なのか、労働法に精通している弁護士に確認する必要があります。
横領した社員にできること3―普通解雇
横領された額が少額であるなど、懲戒解雇ができるか微妙な事案では普通解雇をするという選択肢があります。
「普通解雇では退職金を支払わないといけないのではないか」という疑問があるかもしれません。
就業規則に「懲戒解雇の場合には退職金を払わない」とされているだけでは、普通解雇を行う際には退職金を支払う必要があります。
しかし、就業規則で「懲戒解雇の場合、または、これに類する行為があった場合、退職金を払わない」と規定している場合には、「懲戒解雇に類する行為」があったとして、普通解雇を選択しながらも退職金を支払わないという処理が可能です。
一般的に、解雇の有効性が裁判で争われる場合、普通解雇の方が懲戒解雇より有効と判断されることが多く、会社が勝訴する見込みが高いと思われます。
以上のことから、「横領された金額が少額で懲戒解雇できるか微妙だが解雇したい」というケースでは普通解雇も選択肢のひとつとなります。
横領した社員にできること4―本人への損害賠償請求
解雇も重要ですが、金銭的な補償を受けるということも、経営上は重要なポイントです。
横領された金額が高額の場合、全額の回収が困難なことも多く、いくら回収できるのかが会社の主たる関心事となります。
横領をした本人に損害賠償請求をして、本人が全額または一部でも賠償に応じるということであれば、弁済合意書を作成し、本人から弁済をしてもらうことになります。
このような合意書は、公正証書にすると、いざというときに財産の差し押さえができるようになるためお勧めです。
当事務所では、弁済合意書の作成や公正証書の作成のお手伝いができますので、お気軽にご相談ください。
横領した社員にできること5―身元保証人への請求
横領した本人に損害賠償する資金がなく、本人に身元保証書を提出させている場合、身元保証人に賠償請求をすることもあります。
この場合にも、本人に賠償してもらうときと同様に、弁済合意書を作成します。
この弁済合意書も、公正証書にするのが望ましいです。
入社段階で身元保証書を提出させる際には、身元保証人はサラリーマンか不動産を持っている方が良いでしょう。
これらの立場の身元保証人は、いざとなったときに給与や財産の差し押さえができるからです。
横領した社員にできること6―退職勧奨と退職金の放棄
社員や保証人からどれだけ回収できるか、または、退職金を払う義務があるのかなど、金銭面に関しても関心をお持ちの会社は多くあります。
懲戒解雇にした社員から退職金の支払いを求める裁判を起こされ、「懲戒解雇の場合、退職金は支払わない」という就業規則を設けていたにもかかわらず、退職金の50%を支払うことになったという裁判例も少なくありません。
例えば、以下のような事例をもとに考えてみましょう。
- 横領された額・・・約100万円
- 社員や保証人から取り立てができそうな見込み額・・・0円
- 退職金・・・300万円
これに当てはめると、懲戒解雇をして退職金を支払わずにいたところ、社員から退職金300万円の支払いを求められ、会社に退職金150万円を支払うことを命じる判決が出ることもあり得るということです。
資金がない社員に横領された100万円を賠償してもらえないばかりか、退職金を150万円支払うことになります。
相殺できたとしても、会社は50万円を支払うことになりますので、損害賠償しない代わりに退職金を放棄してもらったほうが得だということになります。
本来は懲戒解雇をしたいが、退職金を放棄してもらったほうが得だという場合には、社員との間で合意退職の取り決めをして退職金を放棄してもらう書面を作成することも選択肢としては十分あり得ます。
この選択肢は、紛争を早期に解決でき、経済的なメリットもあるので、お勧めです。
まとめ
社員による横領行為があった場合に、会社としてできる対応は上記の通りですが、事案に応じて使い分けることが必要となってきます。
どのような対応がベストかは、就業規則の規定、社員が返済する資力を持っているか、退職金はいくらか、退職金の不支給を裁判で争われたときの見込み等の様々な状況で決まってきます。
当事務所では、ベストな対応を裁判例に基づいて判断し、アドバイスいたします。
社員の横領問題があった場合の措置について気になる点がある方は、お気軽に当事務所にご相談ください。