同一労働同一賃金についてー5

 

コラム 同一労働同一賃金について-1でもお伝えさせていただきましたとおり、令和2年に非正規職員の待遇格差に関する訴訟について、3件の最高裁判決が出されました。

 

前回のコラムでは、3件の最高裁判決のうち、大阪医科薬科大学事件について解説いたしました。

 

本コラムでは、日本郵便事件について具体的に解説していきます。

 

 

【日本郵便事件】

 

日本郵便で集配業務をしていた時給制契約社員らが、東京、大阪、佐賀の各裁判所に正社員との待遇の格差の是正を求めて訴えたという事案です。

 

時給制契約社員は、勤務期間は6か月でした。また、同社員は集配等の特定の業務のみに従事し、昇任や昇給は予定されていませんでしたが、正社員登用制度はありました。

 

 

日本郵便事件の裁判の経過は以下のとおりです。

 

 

 

日本郵便事件では、扶養手当、年末年始勤務手当、夏期冬期休暇、祝日給、病気休暇のいずれも、手当を支給しなかったり休暇を与えなかったりすることは不合理であるとされました。

 

 

 

・大阪訴訟は8人で約900万円の支払い

・東京訴訟は3人で約328万円の支払い

・佐賀訴訟は1人に対し約63万円の支払い

が命じられました。

 

この3つの裁判での1人あたりに対する支払額の平均額は約107万円((900万円+328万円+63万円)÷12人)となります。

 

2018年3月時点で日本郵便社の非正規職員は約19万人であり、正規と非正規の格差を正そうとすると、107万円×19万人=2033億円ものコストが生じることになります。

 

 

 

以下、各項目について具体的に解説していきます。



 

〇扶養手当、病気休暇(有給)について不合理とされ、損害賠償請求が認められた理由〇

 

これらの手当の趣旨は、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されていることから、その生活保障、福利厚生を図り、継続的な雇用確保する、という点にありました。

 

これらの趣旨は、相応に継続的な勤務が見込まれる者であれば当てはまることになります。

 

給制契約社員は期間6か月とはいえ、契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど相当に継続的な勤務が見込まれていると言えることから、格差は不合理であると判断されました。

 

なお、扶養手当は、経営者の裁量的余地も大きく、他の手当に比べれば合法とされる余地は大きいと考えられています。

 

実際に、大阪高裁では合法とされていましたが、最高裁では不合理とされています。

 




〇夏期冬期休暇について不合理とされ、損害賠償請求が認められた理由〇

 

夏期冬期休暇を与える目的は、労働から離れる機会を与え、心身の回復を図るという点にありました。

 

この趣旨は、時給制契約社員にも当てはまることから、不合理とされました。

 



〇年末年始勤務手当、祝日給の相違について不合理とされ、損害賠償請求が認められた理由〇

 

年末年始勤務手当や祝日給の目的は、郵便業務の最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている期間に業務に従事したことに対し、対価や通常の賃金の割り増しとして支払う、というものでした。

 

この趣旨は、時給制契約社員にも当てはまるため、これらの手当てを支給しないのは不合理であるとされました。



なお、住宅手当について、東京地裁と東京高裁では格差を不合理としていました。この点、最高裁では住宅手当について改めて判断をしませんでした。地裁と高裁の判断を最高裁は肯定したという形です。

 

仮に、比較対象となった正社員に転勤の可能性があれば、住宅手当を支払っているのは転勤の可能性がある社員にその補償をするものと説明できるのですが、今回の事案では、比較対象となった正社員に転勤の可能性はありませんでした。

 

正社員も非正規社員も転勤はないにもかかわらず、正社員のみに住宅手当を支払っていることを合理的に説明できなかった結果、格差が不合理とされたのです。

 

実は、日本郵便社では、その後、非正規の住宅手当が支払われるようになったのではなく、正社員の住宅手当が10年かけて廃止されるということになりました。



逆に、高裁で支払っていなくても違法ではないとされ確定しているものもあります。

 

具体的には、

 

①夏期年末手当(ボーナス)

②通勤費

③外務業務手当

④郵便外務内務業務精通手当

⑤早出勤務等手当

⑥夜間特別勤務手当

 

です。

 

これらについては、③外務業務手当、④郵便外務内務業務精通手当、⑤早出勤務等手当、⑥夜間特別勤務手当は、いずれも、他の名目で一定の支払いがされており、まったく支払いがされていないというわけではありませんでした。

 

いずれにせよ、後述するハマキョウレックス事件と同様、手当については会社側にかなり厳しい判断がされているのが現状です。

 

 

 

 

 

 

 

 


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