公益通報を理由に解雇されたが無効とされた事例
事案の概要
本件は、茨城県の漁業協同組合に勤務していた2人の職員(原告Aおよび原告B)が、勤務先から普通解雇されたことに対して、解雇の無効と労働契約上の地位の確認、未払賃金および賞与の支払いを求めて訴えた事案です。
原告Aは製氷課の係長として勤務していましたが、勤務先が放射性物質の分析結果を改ざんし、さらに補助金を不正受給している疑いがあるとして、書類の提供や告発を行いました。
その後、勤務先はこれらの行為を虚偽の情報のリークや虚偽告発とみなし、原告Aを解雇しました。原告Bは販売課に勤務していましたが、上司からの叱責や業務負担などにより抑うつ状態となり、休職していたところ、「業務に耐えられない状態」として解雇されました。
原告らは、これらの解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない」と主張して、解雇の無効を訴えました。また、原告Aは賞与の未払い、原告Bは解雇期間中の賃金請求も併せて主張しました。
水戸地裁は、原告Aの行動は公益通報に該当し、虚偽の事実であるとは認められないと判断しました。また、原告Bの解雇についても、業務起因性を十分に検討していなかった点を不当とし、両名の解雇無効を認め、地位確認および賃金等の支払いを命じました。
判例のポイント
本判決のポイントは、以下の3点に整理できます。
1. 公益通報の保護
原告Aの行為は、放射性物質の検査結果改ざんおよび補助金の不正受給に疑念を持ち、書類を提出して捜査機関に告発したものでした。裁判所は、原告Aが虚偽の事実を故意に伝えたとは認められず、告発には合理的な根拠があると判断しました。この告発は公益通報としての性質を持ち、これを理由とする解雇は不当であるとしました。
2. 業務起因性の確認義務
原告Bについては、抑うつ状態の原因が業務にあると主張しました。裁判所は、叱責や業務負担、心理的圧迫などがあったことを認定し、企業側が病状や復職可能性を十分に確認しなかった点を問題視しました。
3. 賞与・賃金の支払義務
解雇が無効とされたことで、労働契約上の地位が継続しており、その間の未払い賃金や賞与についても企業には支払義務があると判断されました。
まとめと実務上の教訓
本事例から、企業が内部通報や精神疾患による休職者を解雇する際の注意点が明確になりました。
まず第一に、公益通報への対応の重要性です。通報者に対して安易な懲戒処分を行うと、法的なリスクが高まります。
次に第二に、精神疾患により休職している従業員を解雇する場合には、その原因が業務にあるかどうかや、復職の可能性について慎重に確認する必要があります。
さらに第三に、賞与や賃金の支払いについては、就業規則や過去の支給実績に基づいて合理的に判断することが求められます。
企業としては、透明性のある対応と、通報を封じない健全な職場風土を整備することが重要です。