同一労働同一賃金についてー3
コラム 同一労働同一賃金について-1でもお伝えさせていただきましたとおり、令和2年に非正規職員の待遇格差に関する訴訟について、3件の最高裁判決が出されました。
3件の最高裁判決について、具体的に解説していきます。
【メトロコマース事件】
地下鉄のキヨスクで販売職務に従事していた1年以内の有期雇用契約である契約社員A、B、C、Dが、同じ内容の業務に従事している正社員との間で賃金等の労働条件に差異があるのは違法であるとして、勤務先メトロコマース社を訴えた、という事案です。
【請求額】
A 1319万4385円と年5%の利息
B 1341万9369円年5%の利息
C 1097万4609円と年5%の利息
D 801万2917円と年5%の利息
契約社員と売店業務をしている正社員の業務はほぼ同じでした。また、両者とも主な業務は、商品の陳列、接客、レジ打ち、伝票記入、売上金の管理などでした。
正社員と契約社員で異なる点は、
・エリアマネージャー業務(複数店の統括・指導・サポート・トラブル処理)
・欠勤者の代行業務
・売店業務以外の仕事に配置転換の可能性があった
などでした。
駅売店業務の社員(契約社員)は平成28年3月には56名で、正社員は4名のみでした。
最高裁で争われたのは、退職金の格差についてでした。
控訴審である東京高等裁判所では、退職金の支給の趣旨を、長年の勤務に対する功労報償の性格を有するものであると判示し、契約社員に退職金を支給しないのは違法であるとして、正社員の4分の1の額を支払うよう命じました。
しかし、最高裁では、メトロコマース社は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署で継続的に就労されることが期待される正社員に対し退職金を支給しているとして、契約社員に退職金を支払わないことは不合理ではないと判じました。
また、メトロコマース社では正社員と契約社員との間に
A 職務内容や責任の程度の違い
B 職務の内容の変更や配置の変更の違い
C その他の事情
があるかどうかについて、最高裁では以下のとおり判断しています。
A
業務の内容や責任の程度の違いについて、正社員は、不在の販売員の代務業務をしたり、エリアマネージャー業務に従事したりすることがあることから、一定の違いがあるとされました。
B
職務の内容の変更や配置の変更の違いについてもありとされました。
C
その他の事情については、売店業務をしていた正社員は、売店業務をしていた職員のうちの2割に過ぎず、特殊な人達でした。
売店業務をしていた正社員は、契約社員から正社員に登用された者と互助会出身の者で構成されており、事務スタッフに配置転換しにくいこと、また、事務スタッフに配置転換したかったができない、といった特殊な事情があるとされました。
また、メトロコマース社には正社員登用制度があることも違法ではないとされた理由のひとつです。
高裁段階では1人頭約88万円の支払義務がありましたが、最高裁で一部逆転して、約46万円の損害賠償に留めることができました。
それでも、非正規社員は平成28年時で約56名おりましたので、正社員と非正規社員との間の格差を正そうとすると、46万円×56名=2576万円のコストが生じることになります。
なお、この最高裁判決はあくまでもメトロコマース社でどうであったか、という視点から判断されたものですので、この最高裁判決がすべての事案に当てはまるというものではありません。
A 職務内容や責任の程度が同じで、
B 職務内容の変更や配置転換についても差がない、
C さらに、正社員登用制度もない会社であったら、
退職金支払いの格差が違法(正社員の4分の1など部分払いを命じられる)とされる余地はあるのです。
実際にも裁判官5名のうち1名は今回の判決に反対の意見を出しています。
次回のコラムでは、大阪医科薬科大学事件について解説していきます。