同一労働同一賃金についてー4
コラム 同一労働同一賃金について-1でもお伝えさせていただきましたとおり、令和2年に非正規職員の待遇格差に関する訴訟について、3件の最高裁判決が出されました。
前回のコラムでは、3件の最高裁判決のうち、メトロコマース事件について解説いたしました。
本コラムでは、大阪医科薬科大学事件について具体的に解説していきます。
【大阪医科薬科大学事件】
事案の概要は次のとおりです。
1年間の有期雇用契約の契約更新を繰り返していたフルタイムのアルバイト職員Aがいました。Aは、平日5日間、1日7時間労働で、大学教授の秘書業務をしていたところ、2年余り勤務した後1年くらい病気で欠勤し、退職しました。
Aは、労働条件が無期雇用職員の労働条件を下回っているのが違法であるとして、
① 無期雇用職員との差額賃金として1038万1660円と年5%の利息
② 慰謝料135万5347円と5%の利息
の支払いを求め、元勤務先を訴えた、というものです。
使用者は大学です。
大学の事務系の職員は正職員200名、嘱託職員10名弱(有期・月給制等)、契約社員40名(有期・月給制)、アルバイト職員(有期・時給制)150名でした。
大学は、診療科を持たない基礎系の8教室に事務職員を1名か2名配置していました。
Aは、そのうちの一つの教室に配置されていました。各教室の事務職員の業務は、大半が定型的で簡便な作業でした。
教室の正職員は英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族の対応や部門の間の連携を要する業務または毒劇物等の試験の管理業務等に従事していました。
大学にはアルバイト職員から契約職員、契約職員から正職員への登用制度がありました。
平成25年から27年にかけて、正職員への登用試験に各年16名から30名が受験し、5名から19名が合格していました。
争点は、アルバイト職員と正職員の待遇の格差です。
本件について、大阪高等裁判所では、賞与について正規職員の60パーセントを支払うよう、私傷病欠勤補償について雇用期間1年の4分の1に限って支払うよう、それぞれ命じました。
しかし、最高裁では賞与及び私傷病欠勤補償のいずれについても支給をしないことは違法ではないと判示しました。
最高裁は、ボーナスの支給の目的を正社員の確保、定着にあるとしました。
また、正職員とアルバイト職員との間に
A 職務内容や責任の程度の違い
B 職務の内容の変更や配置の変更の違い
C その他の事情
があるかどうかについて、最高裁では以下のとおり判断しています。
A
業務の内容や責任の程度の違いについて、アルバイト職員の業務は相当軽易であったのに対し、正職員は英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族の対応や部門の間の連携を要する業務または毒劇物等の試験の管理業務にも従事していて、両者には一定の違いがあるとされました。
B
職務の内容の変更や配置の変更の違いについて、正職員は人事異動を命ぜられる可能性がありましたがアルバイト職員についてはありませんでした。
C
その他の事情としては、正社員登用制度があることから、その他の事情もあるとされました。
高裁段階では124万8000円の支払い義務があるとされましたが、最高裁では6万7400円の支払い義務ありとされました。
大学のアルバイト職員は150名ですので、大学が格差を正そうとすると、6万7400円×150名=1011万円のコストが生じることとなります。
大阪医科薬科大学事件の最高裁判決もメトロコマース事件と同様、あくまでも大阪医科薬科大学ではどうであったか、という視点から判断されたものです。
A 職務内容や責任の程度が同じで、
B 職務内容の変更や配置転換についても差がない、
C さらに、正社員登用制度もない会社であったら
賞与支払いの格差が違法とされる余地はあるといえます。
実際に、同一労働同一賃金ガイドラインではボーナスの格差が違法となる場合があることを指摘しています。
また、私傷病欠勤の補償については、最高裁は、その目的を、正職員の生活保障を図るのと共に、その雇用を維持し確保する点にあるとしました。
最高裁は、賞与の判断の際と同様に職務内容等に大きな差異があることから、アルバイト職員に私傷病欠勤の補償がなくても不合理でないと判示しました。
しかし、この点については、後述する日本郵便事件では不合理とされており、アルバイトには私傷病欠勤の補償制度がなくても良いということではないことに注意が必要です。