退職金の全部没収は有効か?―宮城県県立高校教諭事件―最高裁判所第三小法廷 令和5年6月27日判決

 

退職金1724万円の全部没収が最高裁に有効とされたインパクトの大きい労働判例があります。

それが宮城県県立高校教諭事件(最三小R5.6.27判決)です。

 

【事案の概要】

Xは昭和62年に宮城県に教諭として採用され,勤務状況には特に問題はありませんでした。

しかし,Xは平成29年4月に同僚の歓迎会から自家用車で帰る途中,飲酒運転で物損事故を起こしました(1Lにつき0.35mg)。

 

この事故ではXの氏名と職業が報道され,学校は保護者会などを開く対応に迫られました。

宮城県は,条例により退職手当1742万円を不支給とする処分をしたところ,Xがこの処分を違法だとして宮城県を提訴しました。

 

一審の仙台地裁は,全部不支給処分の全部取消(Xの完全勝訴)としました。

 

二審の仙台高裁は,全部不支給はXに酷だから3割(517万円)は払ってあげなさいという判断から,処分を一部取り消し(Xの一部勝訴)としました。

 

【最高裁の判断】

ところが,最高裁は,宮城県がした全部不支給処分を適法としました(X完全敗訴,Xは退職手当を1円も貰えない)。

理由は以下の①~③のとおりです。

 

 

学者出身(行政法)の宇賀裁判官が反対意見でしたが,その他の4名は結論で一致しました。

 

①~③の理由付け自体は割とありきたりです。

②の『実名報道→保護者会の対応等』が特に結論への価値判断として大きかったように思います。

 

実名報道されるかはその時の運にもよりますので,それで退職金が全部不支給になるかどうか変わるというのはいささか不合理にも感じます。

 

飲酒運転での懲戒免職が適法という最高裁判例は今までもありましたが,退職金全部不支給が適法という最高裁判例は初めてのはずで,とてもインパクトがあります。

 

この判決は行政の裁量判断を重視するという考えがベースにありますので,民間だとここまで使用者側有利にはならないでしょう。

 

 

 


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