売上連動型歩合給の「出来高払制」該当性を認めた裁判例

 

 

事案の概要

 

本件は、売上連動の完全歩合給制を採用していた運送会社が、元従業員から未払残業代請求の訴訟を提起され、弊所が会社側で訴訟代理人を務めた事案です。

 

元従業員は、サカイ引越センター事件判決を引用し、「売上連動の歩合給、さらに完全歩合給は出来高払い制には当たらないため、割増賃金は0.25倍ではなく、1.25倍で計算し支払うべきだ」と強く主張し、会社に対し、未払割増賃金約1007万円、訴訟を起こした日までの確定遅延損害金約225万円と会社が支払うまでに発生し続ける遅延損害金、および付加金約898万円の支払いを求めました。

 

本件の争点は、以下の4ポイントです。

 

①会社は、元従業員に対し売上額の38%相当額を歩合給として支給していたところ、元従業員は売上額の38%が自身の賃金であると認識していたか。

 

②会社では雇用契約書は作成されておらず、就業規則でも賃金が完全歩合となるとされていないが、元従業員の賃金が完全歩合給であったと法的に認められるか。

 

③元従業員の賃金が法的に完全歩合給であったとして、この歩合給は労働基準法施行規則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」に該当するか(サカイ引越センター事件判決の判断枠組みを本件に適用すべきか。)。

 

④本件の遅延損害金の利息について賃金の支払の確保等に関する法律(以下、「賃確法」といいます。)所定の年率16.5%となるか。

また、付加金の支払いを命じるべきか。

 

 

裁判所の判断

 

本件では、裁判所は「売上連動の完全歩合給でも出来高払い制にあたる」と明確に判断し、サカイ引越センター事件判決の理論を事実上否定する形で、全面的に会社側の勝訴判決としました。

 

各争点に対する裁判所の判断は以下の通りでした。

 

①「従業員が売上額の38%が自身の賃金であると認識していたか」について

争点①について裁判所は、「従業員が入社の時点で賃金の定めについて理解していないということは合理的に考えられない」と判断しました。通常、自分が働く会社の賃金体系を理解せずに入社し就業することは考えられないためです。

 

②「従業員の賃金が完全歩合給であったと法的に認められるか」について

争点①の判断に従い、従業員自身が「売上額の38%が自身の賃金である」と認識して働いていた以上、契約書等の書面がなくとも、法的に「完全歩合給」の契約であったと認められ、会社側に有利な判断がなされました。

 

③「サカイ引越センター事件判決の判断枠組みを本件に適用すべきか」について

サカイ引越センター事件では、「労働給付の成果」を作業量や運搬距離に限定し、運転手の売上額はこれに含まれないとして出来高払制を否定しました。

 

しかし、本件判決では、「労働給付の成果」には売上額も含まれるべきであると判示しました。そして、売上額に一定比率(38%)を乗じて賃金が決定されている以上、本件の歩合給は「出来高払制にあたる」と結論付けたのです。

 

さらに同判決は、「サカイ引越センター事件の判決は、実務上確立したものとはいえない」とまで踏み込み、従業員側の主張を完全に退けました。

 

 

④「遅延損害金の利率と付加金の支払の有無」について

ただし、会社の賃金体系が出来高払制(0.25倍での計算)にあたるからといって、残業代そのものを支払わなくてよいわけではありません。

 

そのため、所定時間外労働に対する本来の未払賃金分(0.25倍で再計算した適正額)については、従業員側の主張通り賃確法所定の遅延損害金(14.6%)の対象とされました。

 

また、会社側がこの未払分を事前に従業員に対して振込送金や供託していなかったことから、裁判所は付加金として約112万円の支払いを命じ、この点のみ従業員側に有利に判断しました。

 

 

これらの判断の結果、従業員側から総額2100万円以上(未払割増賃金約1007万円+確定遅延損害金約225万円と会社が支払うまでに発生し続ける遅延損害金+付加金約898万円)を請求されたのに対し、今回の判決によって会社が最終的に支払いを命じられたのは、会社の賃金体系を出来高払制と認めた上で適切に計算された未払割増賃金額約112万円およびそれに対する会社が支払うまでの遅延損害金、それに加え付加金として約112万円の計約224万円みとなりました。

 

これは、実質的には会社側のほぼ全面的な完全勝訴といえる極めて画期的な結果です。

 

 

サカイ引越センター事件以降、売上連動型の歩合給を採用する多くの企業が残業代リスクに頭を悩ませていましたが、本判決は「合意の上での売上連動型歩合給であれば出来高払制(0.25倍での計算)が維持され得る」という強力な道筋を示しました。

 

もっとも、本件のように「雇用契約書がない」、「適切な残業代の支払いが遅れて付加金が命じられる」といった労務管理上の不備は、企業にとって重大なリスクとなります。

 

最新の判例動向を味方につけ、不要な法的紛争を回避するためには、日頃からの適正な賃金設計が不可欠です。

歩合給の設計や、トラック・タクシー等の運送労務にお悩みの経営者様は、ぜひ一度当事務所までご相談ください。

 

 

 


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