自社を守りながら有効活用!従業員の生成AI利用についての規程整備の重要性

先日配信した事務所通信Vol.62において、近年の労働事件では、従業員側が生成AIを利用して争ってくるケースが増加してきているということをお話しました。
ChatGPTやGemini、Claude、Copilot等、生成AIの性能はぐんぐんと成長しており、既に業務に取り入れられている企業様も少なくないのではないでしょうか。
しかしながら、規程の整備をしないまま安易に従業員に生成AIを利用させていると、自社や顧客の重大な営業秘密や個人情報の流出や、それに伴う顧客からの損害賠償請求やレピュテーションリスクなど、大きなリスクを背負うことになりかねません。
また、一度生成AIに入力した情報が学習に利用された場合、事後的に取り除くことは極めて困難です。
そのため、SNS等への秘密情報の投稿禁止に関する条項以上に厳密に規程を整備し、慎重に業務に取り入れることが求められます。
今回のコラムでは、就業規則への規定例を挙げながら、生成AIの業務利用の注意点について解説していきます。
1 業務で利用可能な生成AIを指定する
皆様もご存知のとおり、上記に一例を挙げているように、生成AIにも様々な種類が存在しています。
そのうえ、各生成AIでは大抵の場合、個人利用を目的とした無料のアカウント、有料で機能を拡張したアカウント、ビジネス利用を目的とした企業用アカウントなど、用途に応じたプランが用意されています。
業務において生成AIを利用する際には、必ず学習に関する設定の可否や回答の精度を検討のうえ、従業員が業務上使用してよい生成AIとそのプランを限定して周知するようにしてください。
できる限りビジネス利用を目的とした有料プランを利用されることが望ましいと考えますが、費用面等から無料のアカウントにせざるを得ない場合には、あらかじめ入力した情報を生成AIが学習をしないように設定するようにしてください。
規定例としては、以下のような条項を設けるとよいでしょう。
なお、第1項は就業規則における「生成AI」を定義する内容です。

また、第2項の後半に記載しているように、会社に無断で業務に生成AIを利用してはいけないルールも明記されると、会社の知らない間に従業員が勝手に秘密情報を生成AIに読み込ませていた、という事態を防ぐことができます。
2 私的利用の禁止
業務用の生成AIの利用アカウントを従業員が私的に利用してはならない旨の項目を設けることも重要です。
特に会社が有料のプランで生成AIを利用している場合、私的な相談ごとや調べごとのために有料アカウントを自費負担なく利用したいと考える従業員がいるかもしれません。
そこで、第3項として、以下のように私的利用の禁止条項を設定します(特に第3項(1)および(2))。

また、(3)は従業員ごとに付与したアカウントを他者に利用させない旨のルールの例ですが、部署ごとやグループごとなど、共同利用を前提に有料アカウントを契約した場合には実態に合わせて条文を調整する必要があります。
その他、従業員が業務用アカウントを私的に利用していることが疑われる場合に利用履歴を確認したり、その予防のために会社があらかじめ利用状況を把握したりできるよう、(4)のように報告や開示への協力義務を設定するとよいでしょう。
3 入力情報および出力情報の利用
第4項から第6項までは、従業員が業務で生成AIを利用する際に入力することができる情報の制限および、生成AIが出力した情報の利用についての規定です。
具体的には、第4項及び第5項が入力に関する条項、第6項が出力に関する条項です。

第4項のただし書きでは、会社が事前に顧客等から承認を得ている場合には本項の規定に関わらず生成AIへの情報入力が可能である旨を定めています。
従業員に業務上生成AIの使用を許可する場合、基本的には会社の方針として当該業務で生成AIを使用することを前提に考えていることと存じます。
そのため、顧客と取り交わす契約書や覚書、その他当該業務に関連して取り交わす書面等において、あらかじめ生成AIへの情報入力についての条項を追加しておくとよいでしょう。
一方で、第5項では、当該契約等において相手方からあらかじめ生成AIの利用を制限されている場合には、その定めに従うことをルール化しています。
また、第6項では、生成AIが出力した情報について、その正確性等を十分に精査したうえで利用することを義務づけています。
冒頭に触れた事務所通信のコラムでも解説しているように、生成AIの出力する情報には間違いも相当な程度に含まれています。
皆様もご経験があるかもしれませんが、例えば、生成AIが根拠として提示してきたURLが実際には存在しないページであるようなこと(現在は非公開であったり、削除されていたりするなど)もしばしば見受けられます。
まだまだ「生成AIがいうのだから間違いない!」といえるまでの精度には程遠いのが現実です。
そのため、生成AIの出力内容をそのまま成果物として扱うのではなく、人間の目できちんと確認をする必要があるのです。

これらに加えて、第7項として、私物の電子機器や従業員個人が利用しているアカウントで生成AIを利用する際の秘密情報の入力を禁止する規定を設けます。
これは、第3項が業務用アカウントを私的に利用することを禁じるのと反対に、私物のスマートフォン等で従業員が個人的に生成AIを使用している場合に、そこへ業務に関連する情報を入力することを禁じる内容です。
例えば、営業部の従業員が「●●社の社長さんとの今までの商談内容です。どんなアプローチをしたら新規案件の契約がとれると思いますか?」というような相談を私物のスマートフォンで生成AIに入力していたり、転職を考えている従業員が「今の会社での担当業務は●●、●●などで、給料は●●万円です。同じような職種で、この地域でより良い給料の求人はありますか?」と入力したりしているかもしれません。
このような内容を会社の管理の及ばない個人的なアカウントで入力されてしまうと、せっかく会社や顧客の情報を守るために、業務上の取扱いを厳密に定めていても、情報が流出するリスクを十分に防ぐことは出来ません。
そればかりか、会社の管理が及ばない分、事態の収拾をつけることにもさらなる困難や遅れが生じてしまうリスクがあります。
そのようなことを防ぐために、第7項のように、個人のアカウントであっても会社の業務に関連する情報を無断で入力することを禁ずる条項を設けることが必要です。
4 違反時の対応の定め
第8項は、本条およびその他に会社が生成AIの利用について定めたガイドラインを遵守すべき義務と、従業員がそれらに違反した場合および違反した可能性がある場合の報告義務を定めたものです。

また前述したように、生成AIを利用するうえでは、一度取り込んだ情報が学習に利用された場合、後から取り除くことが非常に困難であるという大きなリスクを背負うこととなります。
そのため、従業員が本条に違反した場合には就業規則に則り懲戒処分を行うことができるよう、念のため懲戒処分事由として明記しておくとよいでしょう。

まとめ
生成AIが急速に普及し、その利用により人手不足の中での業務の効率化が期待される一方で、安易な利用は情報流出リスクにも直結してしまうため、その利用にあたっては慎重な検討としっかりとした社内ルールの整備が不可欠です。
皆様におかれましては、以上までに紹介した規程例などをご参考としていただき、安心して生成AIを業務に生かすための土台を築いていただければと存じます。
生成AI利用についての個別の規定例のご相談や、作成いただいた規定案のチェックをご希望の企業様は、まずはお気兼ねなくお問い合わせいただければ幸いです。












