ハラスメント行為の原因と現状
目次 1 人手不足と退職理由 2 ハラスメント相談の増加理由 3 メンタル不調と生産性低下 |
(1)人手不足と退職理由
現在、企業における従業員の人手不足は深刻化の一途をたどっています。
この50年の有効求人倍率の推移をみると、
- バブル景気(1986~1991年)の際に有効求人倍率が最大で1.4倍
- いざなみ景気(2002~2007年)の際の有効求人倍率が1.06倍
- リーマンショック(2008年)で約0.5倍
- 2018年の平均では1.63倍
⇒実に1974年以来の高水準!
日経MJ平成30年11月7日の記事によれば、2030年には全国で644万人の人手不足になると予想されているそうです。
人手不足の業種ランキング:
- 1位 サービス業
- 2位 医療・福祉業
- 3位 卸売・小売業
- 4位 製造業
人手不足には少子高齢化といった原因がありますが、それだけではありません。
従業員の「退職」も人手不足の原因の1つです。
では、なぜ従業員は退職してしまうのでしょうか。
リクナビによる退職理由の本気ランキングは次のとおりです。
図1 退職理由ランキング(リクナビNEXT:『退職理由の本音ランキング』)
1位の「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」と3位の「同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった」というのはいずれも人間関係に対する不満です。
(2)ハラスメント相談の増加理由
人間関係のトラブルの最たるものがハラスメントです。ですので、ハラスメントは退職理由に十分なりえます。
人手不足が加速している中、合理的に考えると社員を辞めさせないようハラスメントが減少していないとおかしいはずです。
しかし、いじめや嫌がらせによる相談は年々増加しているのが実態です。
厚生労働省が発表している個別労働紛争相談件数の推移を見ても、その傾向は顕著です。
民事上の個別労働紛争相談件数の推移(厚生労働省:「個別労働紛争解決制度施行状況」)
また厚生労働省の調査では、
パワハラを受けたことがあると回答した人:
H24年度の調査では25.3%(4人に1人)➡平成28年度32.5%(3人に1人)増加
では、どうしてハラスメントの相談が増えているのでしょうか。
ハラスメント行為は減少しているはずなのにハラスメントの相談は増加しています。
➡ 労働者がハラスメントに対し敏感になっているからです。
ハラスメント相談が増加している理由は、会社の意識や報道がハラスメントを許さないという雰囲気に急激に変化していることに起因すると考えます。
昔の感覚でハラスメント行為 + 労働者はハラスメントに敏感 自分のハラスメント行為に気づいていない |
⇩
ハラスメント相談増加
ハラスメントによって、エース級の社員はもちろん、それ以外の社員も転職を考え、人材の流出につながります。
(3)メンタル不調と生産性
職場のいじめや嫌がらせが原因でメンタルの不調を訴える労働者も増えています。
精神障害等の労災補償状況をみても労災への請求件数はうなぎのぼりに上昇しています。
精神障害等の労災補償状況(厚生労働省:「過労死等の労災補償状況」)
会社がいわゆるパワハラ上司を放置していると、メンタルの不調で出社できなくなる社員が出てくる可能性が多分にあります。
従業員に退職されてしまうというリスクだけでなく、生産性の低下も懸念されます。
Googleの研究によれば、心理的安全性がチームの生産性を高める唯一無二の成功因子とされています。
心理的安全性:おびえることなく自分の意見や思いを発信できること |
ハラスメントがあると、従業員は自由に意見や気持ちを述べることができず、生産性に影響を及ぼす可能性が十分あります。
また、会社がパワハラを放置していると、転職サイトなどで「ブラック企業だ」などといったカキコミがされるという事態も懸念されます。
そうなれば、せっかく求人を出しても、そういったカキコミを見た労働者が応募を躊躇し、さらに採用が厳しくなるという負の連鎖を引き起こしかねません。
いかがでしたでしょうか。
今回のコラムでは、ハラスメント行為の現状と原因についてまとめました。
次回は、今回の内容をふまえ、『パワハラを放置することの法的リスク』について事例とともに解説します!
当事務所弁護士は労働法を得意分野とし、上記のような問題社員対応に精通しております。
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