パワハラを放置することの法的リスク

 

 

 

 

 

目次

1  ハラスメントのリスクと会社責任

2  ハラスメントの実態

3  ハラスメントの具体的行為3パターン

4  事例1(精神的苦痛をもたらすハラスメント)

5  事例2(精神的苦痛をもたらすハラスメント)

6  事例3(職場環境の悪化をもたらすハラスメント)

 

 

 

 

 

1 ハラスメントのリスクと会社責任

 

 

 

長時間労働過重労働パワハラがセットになると、最悪の場合、労働者が自殺してしまうというケースもあり得ます。

 

当時24歳であった高橋まつりさんが自死されてしまった電通でのケース(平成27年)などが記憶に新しいことでしょう。

 

 

裁判所は、会社には安全配慮義務の一環としてパワハラ防止義務があるとしています。

 

 

つまり、パワハラはパワハラを行っている上司などの個人だけの問題ではなく、会社も当事者なのです。

 

 

 

実際にも、パワハラ防止義務を怠ったとして、被害者が会社に対して損害賠償請求の訴訟を起こすケースがあります。

 

ある日、何の前触れもなく、会社に内容証明や訴状が届くことも。

 

場合によっては、裁判を起こしたことについて被害者側が記者会見を開き、会社が風評リスクにさらされるということも考えられます。

 

 

 

2 ハラスメントの実態

 

 

ハラスメントの問題は大きく分けて2つあります。

 

 

  1:問題社員から普通の社員に対して行われるハラスメント

   (昔からよくある 従来型と言ってもいいかもしれません。)

 

  2:問題社員の態度や業績をなんとかしたいという上司の言動がハラスメントと部下から攻撃される

   (平成後期から令和にかけて現れてきたものです。

    実際にはハラスメントに当たらない場合も多くあります。)

 

 

 

ハラスメントを行う社員を野放しにしておくと、人材の流出を招くだけではなく会社の存亡をも揺るがしかねません。

 

今の人手不足の時代を生き残るためには、ハラスメントの根絶は不可欠です。

 

 

 

 

3 ハラスメントの具体的行為3パターン

 

 

 

ハラスメントにあたる具体的行為は大きく3パターンに分けられます。

 

 

1:身体的苦痛を与える行為

 

・肩を小突く

・胸ぐらをつかむ

・書類や物を投げつける

など

 

 

現代では、労働者を叱る際、指一本触れてはいけません

 

 

 

2:精神的苦痛を与える行為

 

・机をたたきながら怒鳴る

・土下座をさせる

・個室に呼び出して長時間叱責する

・不相当な発言

・多くの人の前で見せしめ的に怒る

・人事評価を客観的に行わない

・動物のあだ名をつける

・飲み会や旅行の出席を強要する

など

 

 

 

パワハラは業務上の指導との区別がしにくいという特徴があります。

 

特に精神的苦痛を与える行為と業務上の指導との区別は難しいです。

 

 

ここで、2つの事例を見てみましょう。

 

 

4 事例1(精神的苦痛をもたらすハラスメント)

 

 

 

 

事例1

・契約期間1年の更新制従業員である女性従業員Xが、同僚の誹謗中傷を繰り返したり、処遇の不満を取締役にいきなり電話したりするなどの問題行動を続けた

 

・総務課長Y1と総務課職員Y2が指導のためXと面談した

 

・面談の際、終始ふてくされた態度で横を向いていたXに対して腹を立てたY2は感情的になった

 

・「前回のことといい、今回のことといい、全体の秩序を乱すような者はいらん。うちは一切いらん。」「何が監督署だ。何が裁判所だ。自分がやっていることを隠しておいて、何が裁判所だ。とぼけんなよ。本当に俺は絶対許さんぞ。」などと大きな声で叱責した(この時Xは秘密録音していた)

 

・Xの人間性を否定するような表現を用いたこともあった

 

・Xはその後、会社とY2に対し800万円の損害賠償請求を起こした。

 

【三洋電機コンシューマエレクトロニクス事件(広島高裁松江支部 H21.5.22)】

 

 

 

 

第一審:裁判所は、会社及びY2に対し、Xに合計300万円を支払うよう命じた

控訴審:会社及びY2に対しXに合計10万円を支払うよう命じた

 

 

 

このXは取締役にいきなり電話をする等だいぶ問題のある従業員のようですが、それでも会社側に支払いを命じる判決が言い渡されたのは、大声で、かつ人格を否定するような発言をしたことがハラスメントに当たると認定されたからでした。

 

 

 

どれだけ問題がある従業員だったとしても、大声での叱責や人格を否定するような発言をするとハラスメントと認定されてしまいますので、こういった言動は極力避けるようにしてください。

 

 

 

5 事例2(精神的苦痛をもたらすハラスメント)

 

 

 

 

事例2

・損害保険会社のサービスセンターに所属する50代の総合職Xは、未処理の案件がたまり人事考課が低かったものの、総合職のため1000万円くらいの年収を得ていた

 

・かねてからXの仕事ぶりに不満を持っていたサービスセンターのセンター長Yは、Xに対し、メール(以下「Yによるメール」参照)を送った

 

・そのメールは他の社員十数名にも一括送信された

 

・このYが送信したメールの内容は名誉毀損に当たるとしてXがYを訴えた

 

【三井住友海上火災保険上司事件(東京高裁 H17.4.20)】

 

 

 

✉「Yによるメール」

 

意欲がない。やる気がないなら,会社をやめるべきだと思います。当サービスセンターにとっても,会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。これ以上,当サービスセンターに迷惑をかけないでください。

 

 

 

 

 

第一審:Xの請求を退けた

控訴審:Yに対し、Xに5万円を支払うよう命じた

 

 

 

 

この事案で何が一番いけなかったかというと、YがXだけでなく、わざと他の社員へも一斉送信したという点です。

 

 

 

もし、同じ内容のメールをXだけに送っていたとしたら、損害賠償問題に発展することは恐らくなかったでしょう。

 

 

いわば公開処刑のような、他の大勢の職員の前で叱責する行為は、パワハラと認定される可能性が高いので、やらないようにしましょう。

 

 

 

 

6 事例3(職場環境の悪化をもたらすハラスメント)

 

 

 

ハラスメントにあたる具体的行為の3つめのパターンは、職場環境を悪化させる行為です。

 

・挨拶をせず無視する

・仕事を与えない

・メールを出さない

・会議に呼ばない

・過大な要求

・過小な要求

など

 

ここで、職場環境を悪化させる行為がハラスメントにあたるとされた事例を紹介いたします。

 

 

事例3

・外資系金融機関の東京支店に勤務するXは、勤続33年で総務課長として責任ある立場だった

 

・同金融機関は赤字傾向にあり、経営陣は管理職らに対して新経営方針への協力を求めた

 

・しかしXを含めた多数の管理職らは現状でも問題ないと考えており、これに協力しなかった

 

・経営陣は、新経営方針に積極的に協力する者を昇格させる一方、協力しなかったXを含む多数の管理職を降格させた

 

・Xは、従来20代の契約社員が担当していた受付業務へ配置転換させられた

 

・4年後、人員縮小を理由に解雇された

 

・Xは、降格から受付配転に至る一連の行為は、Xを退職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして、勤務先に対し慰謝料の支払いを求めた

 

【バンクオブアメリカイリノイ事件(東京地裁 H7.12.4)】

 

 

 

 

 

裁判所は会社に対しXに100万円を支払うよう命じた

 

 

この事件は、上記の「過小な要求」にあたるもので職場環境を悪化させる典型的なハラスメント行為です。

今起きたら、炎上して会社は大変なことになっていたでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

 

問題社員とは言え、大声での叱責や、大勢の前での叱責職場からの切り離しといった行為はハラスメントにあたります。

 


知らぬ間に、ハラスメントにあたる行為をしてしまっていませんか?

 

 

 

 

当事務所弁護士は労働法を得意分野とし、上記のような問題社員対応に精通しております。

 

 

ハラスメント行為などをする問題社員でお困りの企業様、まずはお電話から、ぜひお気軽にご相談ください。

 

 

 

 

 


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