問題社員対応2【解雇が難しい社員】
問題社員の解雇の難しさについて、類型別にご紹介いたします。
①能力不足・適格性欠如
就業規則の解雇事由として「勤務成績が不良で改善の見込みがない時」などが挙げられており、かつこれにあたるとして問題社員を解雇しても、その解雇が有効と見なされる可能性は低いでしょう。
解雇が有効と判断されるには、以下のことを会社側が立証する必要があります。
- 能力や業績が「客観的に」見て劣ること
- それなりの職務上の地位であること
- 注意・指導を何度もしたが改善の余地がないこと
- 配転の余地もないこと
②協調性の欠如やパワハラ
かなりの問題社員であっても、「協調性欠如」は、横領や欠勤などと異なり明確な事実ではなく評価が伴ってくるため、裁判官によって結論が分かれることがあります。
例えば、数学教師の協調性欠如による解雇無効の裁判で、一審は学校が負けて、二審では勝ったという事例があります。
このように、解雇無効の裁判では、一審と二審とで結論が異なることがしばしばみられます。つまり解雇後に裁判になると勝敗の予測が難しいのです。
予測が難しいというのは大きなリスクですので、負けることのリスクを考慮し、できる限り解雇は避けるのが賢明でしょう。
③飲酒・痴漢・業務と関係のない刑事事件を起こした場合
飲酒や痴漢、その他業務と関係のない刑事事件を起こしたという理由での解雇も認められないことが多いです。
例えば、飲酒運転による事故を起こした場合、
- 車関係の仕事
(バス会社、タクシー会社、車両部品製造会社など)
- 事故が重大である
- 新聞やネット記事に掲載される
といった場合でないと解雇するのは難しいです。
飲酒運転をしたにもかかわらず何故解雇が認められにくいかというと、私生活上の飲酒運転は事業に関連がないことが多いこと、また、更生の可能性も比較的認められることによります。
ここで、飲酒運転をしたあるタクシー運転手の解雇事案について見てみましょう。
甲府にあるタクシー会社の運転手が、高崎市での労働組合の会合に出席して(飲酒したかは不明)、東京まで戻り、東京から甲府までの中央線内でポケット瓶入りウイスキーを飲んだ 午後9時頃、甲府駅に着いた 翌午前2時35分頃、運転中に物損事故を起こした(この時間まで何をしていたかは不明) 警察官が呼気検査をしたところ、呼気1リットル中、2.0ミリグラム以上のアルコールが検出された 刑事事件では、罰金5万円とされた 会社は懲戒解雇をしたところ、社員は解雇の有効性を争った 社員は、未払賃金60万円と判決確定までの月額約13万円の給与の支払いを求めて提訴した 相互タクシー事件(東京高裁 S59.6.20) |
この事案で運転手の解雇は認められるでしょうか。
運転手にとって不利な点と有利な点はそれぞれ以下のとおりでした。
<運転手に不利な点>
- 会社は、飲酒運転防止の張り紙をして注意を促していた
- 呼気1リットル中のアルコールが0ミリグラム以上だった
(※0.15ミリグラムから酒気帯び運転で免許停止)
- タクシー会社の運転手が飲酒運転をした
<運転手に有利な点>
- あくまで業務時間外に行われた私生活上の行為
- 報道などはされなかった
この事案は最高裁まで争われましたが、最終的に懲戒解雇は無効とされました。
裁判所が懲戒解雇を無効とした理由は、上述の運転手に有利な点のほか、
- 公務員の飲酒事案でも当時免職は少なかった
- 刑事での前歴はなく懲戒処分歴もない
- 会社は今まで寛容に懲戒権を行使してきた
などという点にもあります。
判決の結果、社員の地位は復活し、会社は社員に約1200万円を支払う義務を負うことになりました。※ちなみに一審では、懲戒解雇を有効としていました
ここまで、問題社員の解雇の難しさについてお話ししましたが、問題社員を解雇しやすい場合もあります。
次回のコラムでは、解雇しやすい問題社員について解説します。