問題社員対応3【従業員の解雇ができる場合】









 

 

前回は解雇が難しい社員についてお伝えしました。

 

今回は、逆に比較的解雇がしやすい場合についてご紹介したいと思います。

 

 

 

目次

 

(1)解雇しやすいカテゴリー

(2)横領

(3)欠勤

(4)協調性欠如・能力欠如

(5)問題社員を解雇する場合に気をつけること

 

 

(1)解雇しやすいカテゴリー

 

比較的解雇がしやすいのは、以下の場合です。

 

  • 横領
  • 重なる欠勤、遅刻
  • 配置転換拒否
  • 在職中の会社との競合行為
  • 好待遇で中途採用したところ期待された仕事ができない

 

 

 

(2)横領

 

 

 

上記の中で特に、「横領」はいきなりの解雇も可能な場合があります。

 

 

 

NTT東日本の営業担当の課長代理であった社員が、平成16年4月から平成19年9月までの約3年半の間に、営業に必要な旅費ということで171万2560円を請求した

 

会社から、不正請求の疑いがもたれ、会社は本人に対し再申請するよう求めた

 

本人から171万円のうち正規の旅費は約79万円であり、差額約91万円は返納すると再申請された

 

また、本人から始末書も提出された

 

(NTT東日本事件 東京地裁 H23.3.25)

 

 

 

 

会社のお金を横領した、あるいは盗んだ、という事件では、比較的普通解雇も懲戒解雇もしやすいです。

 

刑事事件になっていればなおさら解雇しやすいですが、刑事事件になっていない場合、会社側は横領の事実を立証できるようにしておくことが重要です。

 

立証するためには、本人が報告書等で横領した事実を認めている書類があると良いです。というのも、事件が発覚した当初は横領したことを認めていても、いざ裁判になると否認に転じることが多いからです。

 

 

率直に申し上げると、会社側で、その社員がいくら横領したのか、といった実態を把握するのは難しいです。会社には警察のような捜査権限がありませんので、例えば第三者への裏付け捜査などはできませんし、そもそも会社側で裏付けを取るというようなこともしたくはないでしょう。

 

 

上記の事案で、労働者側は解雇の有効性を争ってきました。また、横領額も会社から決めつけられたもので根拠がない、と主張してきました。

 

ですが、この労働者は、事件が発覚した当時、再申請書や始末書の中で、

 

 

「通常の活動をしていれば旅費は月2万円くらいであり、そこから考えると正規の旅費は、営業期間40ヶ月分の80万円で、その他の90万円は横領です」

 

 

 

と述べていました。

 

 

この再申請書や始末書は自白調書ようなもので、有力な証拠となりました。

 

 

判所は、再申請書などでの横領額の推定は合理的だと認定し、懲戒解雇は有効という判断を下しました。

 

この事案は、会社側の証拠集めという点でとても参考になる例と言えます。

 

社員に聞き取りをする際、書面で残すという意味でも、「供述録取書」を用いると良いでしょう。フォーマットはこちらです。ぜひ、ご参考にしてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)欠勤

 

 

 

欠勤を理由とする解雇無効が争われる裁判では、

 

 

  • どの程度欠勤や遅刻があったか
  • どの程度注意や警告をしたか

 

 

ということが検討されます。

 

 

 

従って、欠勤によるいきなりの解雇はできません

 

(参考情報:欠勤を重ねた問題社員が裁判で解雇無効になった事例を紹介しています。▶『問題社員対応1【問題社員とは】』)

 

 

 

しかし、段階的に問題社員に対応し、それでも問題行為の改善が見込まれない場合は、解雇が有効になる場合があります。

 

 

 

当事務所で扱った無断欠勤の解雇事例をご紹介します。▼

 

 

 

 

『ある会社の社員が約6ヶ月の間に、15回以上の無断遅刻・欠勤を繰り返していました。

会社は段階的に以下のような措置をとりました。』

 

 

 

 


①社員の意欲向上のため、本人の希望する課に配置転換した

 

業務改善指導を行い、遅刻・欠勤を厳重に注意する警告書も出した上で、改善されないようなら厳正な処分をすることを通告した

 

③遅刻・欠勤の理由を聴聞し、けん責の懲戒処分をした

 

④再度遅刻・欠勤の理由を聴聞し、罰金を科した


 

 

しかし、それでも無断遅刻・欠勤が改善されることはなく、最終的に普通解雇処分をするに至りました。

 

会社の就業規則に照らし合わせると、懲戒解雇に値するものともいえましたが、普通解雇を選択しました。

 

普通解雇の方が、裁判で有効と判断されやすいためです。

 

 

 

解雇は最終手段です。

 

どうしても解雇せざるを得ないケースもあると思います。その際は、裁判で勝てる解雇をしなければなりません。

 

そのためには、ゴールを見定めた設計図を作成した上で、設計図に沿って時間をかけて解雇をすることが必要です。

 

解雇はいわば一つのプロジェクトということができます。

 

先程の事例でも、当初から当事務所にご相談いただき、解雇のリスクを説明し早期の段階での解雇は諦めていただきました。

その上で、どのような処分をいつ頃にして、最終的にいつ頃解雇しましょう、という打ち合わせを行いました。

 

そして、少しずつ業務指導や懲戒処分を重ね、最終的に解雇をし、プロジェクトを完了しました。

 

 

 

(4)協調性欠如・能力欠如

 

 

 

協調性欠如・能力欠如の問題社員は、原則として解雇は難しい(つまり裁判になった場合負ける可能性が高い)ため、なるべく解雇は避けるべきだと前回のコラムでお伝えしました。

 

 

ただし、自らは退職してくれず、どうしても解雇せざるを得ない場合もあるでしょう。

 

 

能力不足や協調性欠如の場合は、当事務所で扱った欠勤事例のように、

 

 

何度も注意や懲戒処分を重ねなければ解雇が有効(裁判で勝つ)となることはまずないので、

 

 

必ず注意や懲戒処分を重ねてから解雇へ踏み切るようにしたほうが賢明です。

 

 

 


 

(5)問題社員を解雇する場合に気をつけること

 

 

問題社員を解雇する場合、

 

・横領などでない限り、いきなりの解雇はせず、解雇をプロジェクトと考え腰を据えて取り組むこと

 

・労働者から言い分を聞く手続(告知聴聞手続)を行うこと

 

が重要です。

 

 

告知聴聞手続をしないと解雇が無効になるおそれがありますので、懲戒解雇の場合でも普通解雇の場合でも行った方がよいです。

 

また、告知聴聞手続を行ったことは書面で残しておきましょう。

 

その上で、解雇する事実と解雇理由を記載した解雇通知書を作成し、解雇をするのが無難です。これらの手続を経ずに解雇をすると、解雇が無効となるのみならず、バックペイが発生するおそれがあるので注意が必要です。

 

 

 

 


 

 

いかがでしたでしょうか?

 

 

今回のコラムでは、従業員の解雇ができる場合についてご紹介しました。

 

 

しかし、依然として解雇しやすいケースは少ないため、一般的な問題社員に対してすぐに解雇というわけにはいきません。

 

 

次回のコラムから、解雇が難しい問題社員対応への極意を3回に分けて解説していきます!

 

 

 

次回、問題社員対応の極意1は「業務指導」についてご紹介します。

 

 

 


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