退職届の取消と慰謝料

 

 

 

 

 

目次

1 退職届の取消しが認められた裁判例

2 退職勧奨の慰謝料の相場

3 慰謝料の額はどのように決まるか

 

 

 

(1) 退職届の取消しが認められた裁判例

 

 

裁判例1

高校の部活(山岳部)のための登山大会に出て、高校の文化祭を欠勤した教師Aがいた

教師Bは教師Aに対し「このままでは懲戒解雇になる。将来に汚点を残さないように依願退職して懲戒を免れたらどうか」などと諭して退職届を出させた

懲戒事由がないにもかかわらず退職届を出したものとして、裁判所は錯誤による退職届の無効を認めた

学校法人特心学園事件(横浜地裁H7.11.8)

 

 

裁判例2

出退勤の情報について虚偽申告を繰り返し、さらに、外出旅費、通勤交通費の二重請求や生理休暇日まで旅費を請求している社員がいた

この事実が会社に発覚し、会社が懲戒解雇をちらつかせ、当該社員に退職届を出させた

後に、当該社員が退職届は錯誤で無効であることを主張し、認められた

富士ゼロックス事件(東京地裁H23.3.30)

 

 

※錯誤:表意者が無意識的に意思表示を誤りその表示に対応する意思が欠けていること

 

 

 

このように、不用意に懲戒解雇を労働者にかざすことのリスクは甚大です。

 

強迫にもなりかねないため、絶対にしないようにしましょう。

 

 

 

★また録音にも注意しましょう。

 

退職勧奨は録音されている可能性が高く、裁判でも録音音声の証拠能力は認められます。

録音に「退職届を出さないと解雇する」と残っていたらアウトです。

 

 

 

逆に、退職勧奨をする際はこちらから録音することをお勧めします。

 

録音するのであれば、「あとでこのように言った、あのように言ったという問題が起こらないようにしたいので録音したい」と言って録音しましょう。

 

穏やかに退職勧奨をしたのに、後の裁判で「退職届を出さないとクビと言われた」と労働者側が主張してくることもあり得ます。

 

録音することで、そのような主張の予防ができます(スマートフォンで録音が可能です)。

 

 

 

(2) 退職勧奨の慰謝料の相場

 

 

 

退職勧奨のやり方に問題があると、労働者側から損害賠償請求を受ける可能性があります(参照コラム『退職届が取消される?』)。

 

損害賠償が認められる場合、その賠償額はいくらくらいになるのでしょうか?

 

 

<退職勧奨が損害賠償請求の対象とされた裁判例>

 

①勝手にHIV検査をした 

慰謝料300万円

 東京都(警察学校・警察病院HIV検査)事件(東京地裁H15.5.28)

 

②ポスター掲示による名誉棄損行為 

慰謝料150万円

 東京都ほか(警視庁海技職員)事件(東京高裁H22.1.21)

 

③自主退職を断ったのに、2日後の面接で「いつまでしがみつくのか」などと言った

慰謝料20万

 日本航空事件(東京高裁H24.11.29)

 

④執拗に退職勧奨をし、「他の部署にも行けない、会社での展望がない、能力がなく成果も出していないのに高額の賃金の支払いを受けるのはおかしい」などと言った

慰謝料20万円

 日立製鉄所事件(横浜地裁R2.3.24)

 

⑤執拗な退職勧奨の末、必要のない転籍、出向、給料の減額、管理職手当の不支給、侮辱的な言動、恣意的な低査定をするなど

慰謝料100万円

 兵庫県商工会連合会事件(神戸地裁H24.10.29)

 

 

 

このように、裁判例によって慰謝料額にばらつきがあります。

 

では、どのように慰謝料額は判断されるのでしょうか?

 

 

(3) 慰謝料の額はどのように決まるか

 

 

<慰謝料が高額になるケース>

 

問題社員の場合、降格処分、配転、解雇、雇止め、パワーハラスメント等と一緒に退職勧奨がされるケースです。

 

一緒になされた降格処分などが違法とされると、慰謝料が高額になる傾向があります。

 

 

<慰謝料が低額になるケース>

 

共になされた解雇などは有効とされ、退職勧奨の違法性のみが問題とされる事例では、慰謝料はそれほど高額にはならない傾向があります(例:日本航空事件)

 

また、退職勧奨とともに解雇などはせず、退職勧奨だけの違法性が問題とされる事例も、慰謝料は高額になりにくいです(例:日立製作所事件)。

 

 

 

退職勧奨は単なる働きかけに過ぎないため、退職勧奨をすることは原則として自由です。

 

※退職勧奨は、従業員を強制的に退社させる解雇とは決定的に異なります

 

 

ただし、社会的相当性を逸脱していると違法とされます⚠

 

 

では、社会的相当性を逸脱しているかどうかは、どのように判断されるのでしょうか?

 

 

退職勧奨の社会的相当性の判断要素は色々あります。

 

・人数

・時間

・場所

・頻度

・回数

・退職を求めることに合理性があるか

・退職を求める理由の説明が十分になされたか

・嫌悪感情の有無

・表現方法

 

などがあります。

 

 

あまりにひどい退職勧奨の場合、慰謝料のみならず、強迫取消の対象になることもあるため、退職勧奨を行う人数や時間配分などはよく考えなければなりません。

 

先に述べたとおり、解雇をちらつかせた退職勧奨は、退職届の取消が認められます。

 

また、退職勧奨の人数、時間、言い方によっては、退職勧奨が「強迫」にあたり、やはり退職届が取消になる可能性があります。

 

あまりに強引な退職勧奨は、グーグルマップや転職サイトに会社を中傷する書き込みをされる可能性もあるので、注意が必要です。

 

 

 

★退職勧奨の具体的な進め方など、労働問題でお困りの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

 

 

 


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