外国人雇用について
平成31年4月、入管法の改正により、「特定技能」という在留資格が創設され、14業種において就労目的の訪日が可能となりました。
今後、数十万人の受け入れが見込まれています。
これからの外国人の雇用拡大を見据えて、この新しい制度について対応策を知っておく必要があるでしょう。
外国人技能実習生の現状
労基署による、平成29年時点の外国人技能実習生の実習実施者に対する監督指導状況は以下のようになっています。
国籍を理由とする差別的な取扱いは労働基準法により許されていません。
しかし、外国人には日本人と同等の保護が及ばないと考えている方もまだ多く、外国人労働者に対して配慮が足りていないのが現状です。
これから外国人の雇用が拡大していく中で、今のままの意識ではトラブルが起きてしまうことは必至でしょう。
日本人労働者との差異
外国人は、「就労可能な在留資格」が許可されなければ、仕事に就くことができません。
また、在留資格で許可された範囲の業務に就くことが必要です。
しかし、外国人労働者であっても、労働関係における日本人労働者との対応の差はありません。
社会保険、税金の取扱いについても同様です。
日本国内の企業で働いている以上、適用されるのは日本の労働法です。
労働組合法・労働基準法・最低賃金法等、労働法令の適用についても、原則日本人と変わるところはありません。
つまり、日本人との違いは、「在留資格」に関する部分だけなのです。
この「在留資格」に関して新たに創設されたのが「特定技能」です。
技能実習
「特定技能」の前に、まずは、在留資格「技能実習」についてみていきましょう。
賃金については、日本の労働法が適用されることから分かるように、技能実習生にも、日本人同様に最低賃金以上の給与を支払う必要があります。
その他に「技能実習」について特筆すべき点と言えば、実習計画です。
監理団体に適法・妥当な実習計画を作成してもらはなくてはなりませんが、この実習計画については、計画の認定を取り消されるという事態が既に生じています。
実習計画とは異なる業務に技能実習生を従事させていた会社が、実習生の計画の認定を取り消されています。
また、日本人労働者に過重労働をさせていたことが発覚し、罰金刑となった会社でも、同社で働く技能実習生の実習計画が取り消されており、この2社は、5年間にわたり、全事業所で技能実習の受け入れができなくなってしまいました。
技能実習計画が取り消される場合は以下にあげられます。
- 技能実習計画通りに外国人労働者を稼働させていないとき
- 欠格事由に該当するとき
ア 労働法違反で罰金刑
イ 禁固以上の刑に処せられる
ウ 役員が禁固以上の刑に処せられる
- 出国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為をした時など
日本人労働者に関して労働法違反で罰金刑になった場合でも、欠格事由に該当すると考えられていますから、実習生本人たちだけではなく、日本人の労務管理にも気を配ることが重要になってきます。
特定技能
日本で働く外国人には、それぞれの業種にあった在留資格が必要になります。
Ex)医師→在留資格「医療」、語学教師→在留資格「教育」 etc.
この在留資格に新たに「特定技能」が導入されることで、深刻な人手不足と認められた14の業種に、外国人の就労が解禁されることになります。
これは、深刻化する国内での人手不足への対策として打ち出されたもので、在留資格「技能実習」とはその目的が異なります。
<技能実習>
開発途上国から来た外国人に日本の技術を習得してもらい、自国の発展に役立ててもらう
→国際協力が目的
<特定技能>
人手不足が深刻化している日本で労働者として在留してもらう
→人手不足解消が目的
「特定技能」外国人を雇用するには
「特定技能」外国人を雇用するには特定技能所属機関として認められる必要があります。
1.特定技能雇用契約の締結
外国人労働者と日本の公私の機関とが締結する雇用契約を特定技能雇用契約といいます。
この雇用契約には以下の事項を明記しなくてはなりません。
① 外国人が行う特定技能活動の内容及びこれに対する報酬その他の雇用関係に関する事項
② 雇用契約の期間が満了した外国人の出国を確保するための措置その他当該外国人の適正な在留に資するために必要な事項
③ 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならないことについての事項
2.受け入れ会社として欠格事由がないこと
受入れ会社に求められる適格性は以下の通りです。
①特定技能雇用契約を適正に履行しているかどうか
②特定技能外国人支援計画を適正に実施しているか否か
③特定技能雇用契約の締結の日前、5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をしていないか
3.外国人支援計画の実施
外国人労働者を雇用する際に大きな壁となるのが言語や文化の違いによる問題です。
外国人がスムーズに日本で働けるようにするためには、様々な支援を行う必要があります。
そこで、受け入れ会社は外国人の職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援に関する計画を実施しなくてはならないとされています。
①入国前の生活ガイダンスの提供
②外国人の住宅の確保
③在留中の生活オリエンテーションの実施
④生活のための日本語習得の支援
⑤外国人からの相談・苦情への対応
⑥各種行政手続についての情報提供
⑦非自発的離職時の転職支援
外国人雇用をめぐる様々なトラブル
日本の慣習
来客者へのお茶出し、清掃、社内行事への参加など日本人労働者には当然のこととして受け入れられている慣習も、外国人労働者からすると理解できないということがあります。
日本の就労ルールをある程度知っている外国人学生や、アジア系の外国人は、こういった日本の慣習にも馴染みがある場合もありますが、欧米人、アジア系の若い労働者、IT関係の高度技術系の外国人などには馴染みがなく、トラブルになることがあります。
よって、外国人労働者を受け入れる場合には、日本の慣習をあらかじめ説明し、理解を得ておく必要があるのです。
処罰
不法就労助長罪
処罰の対象となるのは、不法就労した外国人と、不法就労させた事業主です。
刑罰は、①3年以下の懲役もしくは②300万円以下の罰金または①②を同時に受けることになります。
就労資格があるか否かは、在留カードを見ればすぐにわかりますので、外国人労働者が不法就労だと知らなかったとしても、在留カードを確認していないなどの過失がある場合には処罰を免れることはできません。
ハローワークへの届け出
外国人を雇用する場合には、ハローワークへの届け出が必須になります。
この届出を怠ると、30万円以下の罰金など処罰の対象となります。
募集時に気を付けるポイント
募集時の条件と採用時の条件が異なっていると後で紛争になるリスクがあるため、注意が必要です。
これは日本人労働者と同じことで、外国人労働者だからよい、ということにはなりません。
また、厚労省の告示で、募集時の労働条件を書面で明示することが義務付けられています。
その際には、平易な日本語やアルファベットを用いて労働条件を明示するようにしましょう。
外国人に配置転換を拒否されるといった、配置転換でトラブルになる事例が多く見受けられますので、配置転換についても、募集時から明示することが望ましいと言えるでしょう。
雇用契約時に気を付けるポイント
面接後に内定となり、雇用契約をする場合、労働条件通知書や雇用契約書を作成することになりますが、これらについても、できる限り平易な日本語やアルファベットを用いるようにしてください。
また、宗教上の配慮をすることが困難であれば、その旨を契約書に盛り込むようにしましょう。
例えば、宗教によっては決まった時間に礼拝を行うことが義務付けられている場合があります。
しかし、業務時間内の礼拝を認めるのは難しいような場合もありうるかと思われます。
そこで、あらかじめ雇用契約書に業務時間内の礼拝を禁じたり、礼拝時間を休憩時間としたり、といった項目を設けておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。
★当事務所の解決事例
事例1ー社会保険未加入
<事件>
定住者Xを、建設会社Yは半年の期間を定めて雇用した。
Y社は、社員を社会保険(健康保険と厚生年金保険)に加入させる義務が課される会社であったが、Xは、「社会保険に加入しても年金を貰えるまで日本にいるかわからないので社会保険には加入したくない」と言ってきた。
Y社としても、社会保険に加入させない方が自社にメリットがあると考えて、Xを社会保険に加入させずに就労させた。
Xの働きぶりには難があったので、Y社はXの契約を3回目以降は更新しなかった。
Xはその後、会社外の労働組合に加入し、「不当解雇された。社会保険にも加入させてもらえなかった。」などと主張して、団体交渉を求めてきた。
団体交渉を断ると、労働組合はY社の元請企業の門前で、Y社がブラック企業であるとするビラ配りをした。
<当事務所の対応>
「団体交渉には応じる。場所はXの現住所地かまたは両者の公平を考えた場所にしたい」と申し入れをした。
「手取りを増やしたいから社会保険には入りたくない」と考える外国人労働者は少なくありません。
外国人労働者であっても、当該外国人が社会保険の加入要件に該当している場合、社会保険の加入は義務となります。
「社会保険に入りたくない」と言われたことに乗じて未加入とすると、紛争になってしまった場合、「社会保険に入れてもらえなかった」など、会社を責める口実を与えることになってしまいかねません。
したがって、安易に社会保険に加入させずに雇用するのはリスクが高く、避けた方が良いと考えられます。
事例2―解雇予告手当
<事件>
派遣会社Xは外国人の派遣を主な業務としている。
X社は、経営が苦しくなってきたので、自社の労働者約50名を、友人が経営している派遣会社Z社に移動させることにした。
移動にあたっては、X社が外国人労働者を解雇し、その上で、Z社と外国人労働者らで新たに労働契約を締結した。
外国人労働者らはZ社の社員として、移動前と同じ条件で派遣されているものの、X社に対し、不当解雇されたなどとして、解雇予告手当の支払いを求めてきた。
経営難のため、辞めてもらうことはやむを得ませんが、解雇という手段にしたことが良くなかったといえるでしょう。
しかし、経営が苦しい時の解雇でも以下の①または②が必要です。
①30日前の解雇の予告
②すぐに解雇する場合には1か月分の賃金の支払い(解雇予告手当)
日本で働いている以上、外国人労働者にも、日本人労働者と同じく解雇予告手当を支払う必要があります。
解雇予告手当を支払わないで辞めてもらいたい場合には、「お互いの合意で雇用関係を解除した」という体裁にする必要がありました。
事例3-解雇
<相談>
外国人労働者(技術、人文知識、国際業務の在留資格あり)が、欠勤を繰り返し、モチベーションも低くなっている。
他の従業員にも悪影響を及ぼすので、解雇してよいか。
<当事務所の対応>
退職勧奨をするようアドバイスした。
退職勧奨をした上で、当事務所から英文の退職届を会社に渡し、会社から外国人労働者に退職届を交付して署名押印してもらった。
欠勤を繰り返すような問題社員への対応は、外国人でも日本人でも同じです。
問題社員対応について詳しくはこちら
不当な解雇をすると、裁判で解雇が無効とされ、バックペイを支払うことになります。
したがって、いきなり解雇をするのではなく、まずは退職勧奨を行うようにしましょう。
これからの人材採用に大きな改革をもたらすであろう「特定技能」ですが、新設されたばかりということもあり、その導入について疑問をお持ちの方が多いだろうと思います。
特定技能外国人の雇用を検討されている方は、弁護士がアドバイスをいたします。お気軽にご相談ください。
★関連するコラム★
外国人労働者から新型コロナウイルスが心配なので帰国したいと申し出があったら?