同一労働同一賃金

 

 

 

同一労働同一賃金は、正規社員と非正規社員の給料の相違に着目した改革です。

 

ここでは、正社員間、非正規社員間での賃金の差は問題とされていません。

 

問題となるのは、正社員と、職務内容と責任が全く同じである非正規社員との間で賃金に差があることです。

 

正社員には各種手当を支給しているけれど、上記のような非正規社員には手当が支給されていない、という場合には待遇差別で違法とされます。

 

 

このような規定が設けられた背景には、弱者(非正規社員)保護の考え方があります。

 

 

 

同一労働同一賃金ガイドライン


どんな待遇差が不合理であるのか、厚生労働省がガイドラインを公表しています。

 

これを参考に、具体的に違法とされるものについてみていきましょう。

 

 

役付手当:同じ肩書であるのに手当の支払いに差がある

時間外労働手当、深夜・休日労働手当:手当について割増率が異なっている

単身赴任手当:正社員には手当を支払っているが非正規社員には支払っていない

慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、休職:正社員には付与しているのに非正規社員には付与していない→違法(休職中に契約期間が終了した場合、契約を更新しないことは適法)

 

 

上にあげたものはほんの一部ですが、全て違法とされ、是正しなくてはなりません。

 

その他の出張の旅費や社宅の利用といった手当についても、正社員と非正規社員で同一にしていく必要があります。

 

 

 

最高裁判例

 

ハマキョウレックス事件(最判平成30年6月1日)

 

正社員に支給されている手当などが、契約社員に支払われておらず、契約社員から損害賠償請求がされた事件。

 

<契約社員の請求>

  • 正社員と同じ地位であることの確認

    →判決で否定された。

  • 損害賠償請求

    →3年分の手当ての差額について損害賠償請求が認められた。

 

出典:労働判例2018.7.15(No.1179)をもとに当事務所で作成

<最高裁で認められた額>

1万円(皆勤手当)×36か月(3年)=36万円

 

 

大阪高判平成28年7月26日では、非正規社員1人につき77万円の請求が認められているため、非正規社員1人あたりの請求額は77+36=113万円になります。

 

したがって、請求総額は113×3,935名(非正規社員)=44憶4655万円にものぼります。

 

 

長澤運輸事件(最判平成30年6月1日)

 

正社員に支給されている手当などが、定年退職後の期間雇用者に支払われておらず、期間雇用者から損害賠償請求がされた事件。

 

<期間雇用者の訴え>

仕事内容は定年前と同じなのに定年後の賃金が2割引き下げられた。

この引き下げは期間の定めの有無によるもので不合理である。

 

 

出典:労働判例2018.7.15(No.1179)をもとに当事務所で作成

 

以上から分かるように、長澤運輸事件の方が会社に有利に判断がされています。

 

この2つの事件の違いは何でしょうか。

 

それは誰と誰の間の格差を問題としているかです。

 

 

ハマキョウレックス事件:同年代の正社員と契約社員の間の格差

長澤運輸事件:正社員と定年後再雇用者の間の格差

 

つまり、正社員との間で格差があったとしても、定年後再雇用者の場合には会社側に有利な判決がなされたのです。

 

 

定年後再雇用者

  • 長期的な雇用を前提としていない
  • 定年退職するまでは、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた
  • 要件をみたせば、老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている

 

また、長澤運輸事件では、労働組合と団体交渉をした上で賃金が決められていました。

 

裁判所は、会社が労働者と話し合った上で手当などを決めたかどうかを重視するため、これは重要なポイントになります。

 

 

以上により、長澤運輸事件では、多くの手当格差が不合理ではないとされたと考えられます。

 

 

高等裁判例

 

 

1.メトロコマース事件(東京高判平成31年2月20日)

 

地下鉄のキヨスクで販売職務に従事していた、1年以内の有期雇用契約である契約社員A、B、C、Dは、同じ内容の業務に従事している正社員との間で賃金等の労働条件に差異があるのが違法であるとして、勤務先メトロコマースを訴えた。

 

<請求額>

 A        13,194,385円と年5%の利息 

 B        13,419,369円と 〃

 C        10,974,609円と 〃

 D         8,012,917円と 〃 

 

 

<高裁で認められた総額>

2,646,940円

 

 

2.学校法人大阪医科薬科大学事件(大阪高平成1年2月15日) 

 

1年間の有期雇用契約の契約更新を繰り返していたフルタイムのアルバイト職員Aは、平日5日間、1日7時間労働で、大学教授の秘書業務をしていた

労働条件が無期雇用職員の労働条件を下回っているのが違法であるとして、元勤務先を訴えた。

 

<Aの請求>

  • 無期雇用職員との差額賃金として10,381,660円と年5%の利息
  • 慰謝料1,355,347円と5%の利息

 

 

<高裁で認められた総額>

1,248,150円

 

 

3.産業医科大学事件(福岡高判平成30年11月29日)


歯科口腔外科に30年以上勤務している事務職員(パート、短大卒)は、作業範囲は多岐に渡り、フルタイムで働き、残業もこなし、正規職員と同じ仕事をしていた。

それにもかかわらず、同じころ採用された正規職員(大卒)と給与で2倍以上の差があった。

不合理な差別をされていたとして大学を訴えた。

 

<事務職員の請求>

824万750円及び利息

 

<高裁の判断>

裁判所は、大学が不合理な差別をしていたということで、短大卒の正規職員として採用されていればいくらの給料となっていたかを計算し、その差額を損害とした。

☆基本給の差が違法とされたのは1~3までの裁判例のうち、この判例のみ

 

<損害賠償金の総額>

113万4000円

 

 

今後すべきこと

 

2021年から、中小企業について、同一労働同一賃金に関する法律が適用されます。

 

なぁんだまだ先じゃん、とお思いの方、それは間違いです!

 

現在施工されている法律を前提にしても、同一労働同一賃金にしていかなくては会社は裁判に負けてしまいます。

 

現状でも、給料規定の改定は必須なのです。

 

 

賃金規定の改定

 

手当の見直し

 

手当の差異は違法とされやすいため、早急な是正が必要です。

 

 

①正社員の手当を切り下げることで正社員と非正規社員間の差異を是正する方法

 

しかし、正社員の手当てを切り下げるという行為は、就業規則の不利益変更に当たる可能性があります。

 

正社員と話し合いをし、同意を得るなど適切な手続きを踏んでから行うようにしましょう。

 

 

②正社員の手当を段階的に減らし、その分だけ非正規社員の手当を段階的に増やしていく方法

 

資金面で手当の支給が難しい場合は、「非正規社員には全く支給しない」では違法になってしまいますから、手当額を正社員と完全に同じにはできなくても、現状よりも近づける努力をすることが必要です。

 

 

また、手当主義からの脱却を試みることもひとつの方法です。

 

手当は、違法に差別をしていると言われやすいです。

 

そのため、役付手当や精勤手当等、どうしても必要な手当以外は、廃止してしまっても良いと考えられます。

 

 

賞与の見直し

 

正社員と非正規社員が同じ責任で同じ仕事をしている場合には、「非正規社員に全く賞与はない」のは違法となりえます。

 

非正規社員にも賞与を支給する必要があります。

 

支給が資金的に厳しい場合には、正社員の賞与支給額を切り下げて、その分を非正規社員に充てるなどの対策を取っていくことが考えられます。

 

 

しかし、正社員と非正規社員の格差をいきなりなくしていくことは難しいかと思います。

 

そもそも、同一労働同一賃金は、正社員間・非正規社員間の問題です。

 

正社員と非正規社員との間で同一労働同一賃金の問題が生じてしまうのは、両者が同じ責任で同じ仕事をしているからです。

 

よって、この両者の責任を違うものだといえれば、同一労働同一賃金の問題は生じず、格差は適法なものだと言いやすくなります。

 

 

正社員と非正規社員で責任が違うというには

 

<就業規則に設けるべきこと>

①正社員の責任について言及する

 

第○条

「正社員は、当社のみならずグループ企業全体の発展、企業活動を通じた社会的責任の遂行、人材開発、部下の指導育成、生産効率、品質の目標値、品質改善に責任を持つ」

 

 

②正社員と非正規社員には「上下関係がある」と規定する

 

第○条

「契約社員は、正社員の指示のもと、雇用契約に記載された事業所で、正社員の補助業務に従事する」

 

 

③正社員には「昇進、降格、転勤、出向、職務変更」を命じることがあるが、非正規社員にはこれらを命じることがない(若しくは命じても限定的である)ことをうたっておく

 

第○条

「正社員は、勤務場所、従事すべき業務を、変更することがある」

 

第○条

「会社は、契約社員に対し、本人の同意なく、個別契約で特定された勤務場所及び従事すべき業務の変更を命じることはない」

 

 

④正社員登用制度を設ける

・正社員募集時において、社内でも非正規社員に募集内容を周知

・正社員のポストの社内公募

・正社員へ転換するための試験制度(筆記試験、面接、論文作成等)の構築

 

 

⑤正社員には「残業を命令できる」が、非正規社員は、「残業命令はしない、同意があれば残業を頼める」とうたっておく

 

 

以上のような規則を設けることで、正社員と非正規社員の責任についてはっきりと違いを出すことができます。

 

そうすれば、同一労働同一賃金の問題は発生しにくいと言えるでしょう。

 

 

現状で給料規定の改定は必須です。

 

改定をしない場合には、集団訴訟を起こされる可能性もでてきます。

 

 

労使間トラブルを避けるためには、迅速な対応が必要です。

 

 

賃金の見直し、就業規則の改定にあたり、弁護士がアドバイスをいたします、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

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