退職届が取消される?

目次

1 退職勧奨の問題点

2 損害賠償請求vs退職届取消

3 事例パターンとリスク

 

(1) 退職勧奨の問題点

 

退職勧奨の結果、労働者から退職届が出され、会社から「承諾」の文書をレターパックで送りました。

本来、これで退職、一件落着となるはずです。

しかし、例えば退職勧奨をするときに嘘を言ったり、強引に退職届を出させたりするなど、退職勧奨のやり方に問題がある場合、後になって会社が訴えられるなどの問題が生じる可能性があります。

このような退職勧奨が引き起こす法的問題は2つあります。

 

 

問題点(1)

退職届が「強迫」「詐欺」等で取消とされること

 

退職届の取消が認められると、退職届の提出がなかったことになり、法律的に見ると、合意退職の申し込みがなかったことになります。そうすると、問題社員は依然として社員ということになり、復職をさせる必要が出てきます。

 

 

問題点(2)

退職勧奨が違法ということで損害賠償請求されること

 

 

労働者による損害賠償請求の相手は企業となります。

 

ただし、社労士先生や弁護士が退職勧奨に立ち会っていた場合、社労士先生や弁護士も損害賠償請求の相手方とされる可能性があります。

 

 

 

(2) 損害賠償請求vs退職届の取消

では、損害賠償されるのと退職届が取消されるのとでは、どちらが会社にとってよりダメージが大きいのでしょうか?

 

【損害賠償請求】

 

退職勧奨で損害賠償請求が認められる場合の額は、事案ごとにさまざまですが、相当悪質なことをしない限りは、100万円以下となることが多いです。

損害賠償請求の場合、お金の問題だけで済み、100万円以下であれば企業を相手とする訴訟にしてはそれほど高額ではありません。

 

 

【退職届の取消】

 

退職勧奨が強迫詐欺だったと認定されると、

 

   ①復職

   ②裁判をやっていた期間の賃金

   ③損害賠償請求

 

がセットで認められることとなり、会社へのダメージが甚大です⚠

 

 

◎民法では、強迫や詐欺でされた行為は取り消すことができるとされています。

 

例えば、追突事故を起こしてしまい、被害者に怪我をさせてしまった、という事案で、

被害者が車から降りてきて、怒鳴りつけられたうえ車の後部座席に乗せられ、「慰謝料100万円を支払います。」という一筆を書かせられた、とします。

この場合、この一筆は脅迫によって書かされたものとして取り消しすることができます。

 

 

退職届という「合意退職の申込」も、強迫などを理由に取消しの対象となります。

 
※「撤回」と「取消」の違い
撤回:使用者の承諾があるまでは、理由がなくてもできる(承諾があったらできない
取消:使用者の承諾があった後でも、労働者側が詐欺や強迫を立証できればできる

 

 

 

 

(3) 事例パターンとリスク

退職届取消が認められる事例について

 

「退職届を出さなければ懲戒解雇する」と言って退職届を出させる案件において、退職届の(詐欺や強迫による)取消が認められています。

 

「退職届を出さなければ懲戒解雇する」という発言をした場合、そもそも、会社が有効に懲戒解雇をできたのかということが問題視されます。会社側が懲戒解雇できなかったのであれば、騙したり脅したりして退職届を出させたと事実認定されることになります。

 

普通解雇も同じで、「退職届を出さないと(普通)解雇をする」と言って退職届を出させた場合、後々裁判になると、会社が退職届の提出時に(有効に)普通解雇できたのかが争いになります。

 

退職届の詐欺や強迫による取消が争われた場合、会社側は懲戒解雇や普通解雇が可能であったことを立証していくことになりますが、実際のところこの立証はとてもハードルが高いです。

 

 

従業員から裁判を起こされ、会社側で懲戒解雇や普通解雇が可能であったことの立証ができないと、会社は以下のダメージを負うことになります。

 

    ①退職していないことになるので、会社に戻ってくる(復職)

    ②裁判をやっている期間の賃金を払うことになる

    ③損害賠償請求もされる

 

 

➡「退職届を出さないと懲戒解雇もある」等という不用意な一言の会社側へのリスクは大きいので、このような発言は絶対にしないようにしましょう。

 

 

 

 

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