Vol.63【同一労働同一賃金の最近の動向 その1】
【同一労働同一賃金の最近の動向 その1】
10月13日に2つ、と15日に3つ、同一労働同一賃金に関する最高裁判決が出ました。
10月13日の最高裁判決は、「非正規職員へ退職金とボーナスを支払わないことは不合理でない」、としています。この結論から、企業側が勝訴したように報道されています。
他方で、10月15日の3つの最高裁判決は、いずれも日本郵便の非正規職員に関するもので、5つの手当(扶養手当、年末年始勤務手当、夏期冬期休暇、祝日給、病気休暇)を非正規職員に支払えとされており、労働者側が勝訴したように報道されています。
これらの5つの最高裁判決で一番インパクトが大きいと思うのは、メトロコマース(東京メトロの子会社)事件における非正規職員への退職金不払いと、大阪医科薬科大学事件における非正規職員へのボーナス不払いが、それぞれ不合理でないとされたことです。
誤解してはいけないのは、非正規職員へのボーナスの支払いと退職金の支払いがあらゆる場面で否定されたわけではないことです。
今回の最高裁判決は、事例判断と言われるもので、その事案に限り、非正規職員へのボーナス及び退職金の不払いが不合理でないとされたに過ぎません。
現に、厚生労働省が平成30年12月に発表している同一労働同一賃金ガイドライン(指針)では、非正規職員のボーナスと退職金を支払わないと問題となるケースがあるとされています。
従って、非正規職員へのボーナス及び退職金の不払いがどんな事案でもOKというわけではないのですが、やはり最高裁判所の判決ですから重みがあります。今後の同種の裁判に大きな影響を与えることは確実です。
両事件でも、企業側に有利な判断が出た要因は、大きく分けて5つあります。
まず一つ目に、退職金とボーナスが支払われている趣旨(理由)が、「正規職員の確保」と認定されたことです。ボーナスなどが支払われている目的が正規職員の確保ということであれば、非正規職員には支払わなくてよいという流れに自然となります。
二つ目に、正規職員と非正規職員で職務内容に差があったことです。特に、大阪医科薬科大学事件では、正規職員は、英文の文献の翻訳、遺族の対応など、かなり難易度の高い作業をしていましたが、非正規職員はそうではありませんでした。
三つ目に、配置転換の可能性です。両事件でも、正規職員には抽象的にでも配置転換の可能性がありましたが、非正規職員にはありませんでした。正規職員は、配置転換という生活に大きな影響を与える人事の対象になる可能性がある以上、それに伴った待遇が与えられるというわけです。
四つ目に、メトロコマース社でも大阪医科薬科大学でも、正規職員登用制度があり、実際に運用されていたことです。正規職員登用制度を設けることは、正規職員と非正規職員の待遇格差が問題となった場合、企業側の言い分を通すために重要な要素になると感じました。
五つ目は、二つ目と同じく正規職員と非正規職員の職務内容の差についてですが、メトロコマース事件においては、少し特殊な状況があったことです。同事件では、売店業務を行っていた非正規職員が、同じく売店業務を行っている正規職員との格差はおかしいと訴えています。確かにメトロコマース社では、売店業務をしている正規職員もいたのですが、この正規職員の配置は社内では特殊な例であって、メトロコマース社の多くの正規職員は本社で事務等をしていたのです。大多数を占める通常の事務職をしている正規職員を含めた上で、メトロコマース社の正規職員と売店業務をしている非正規職員を比較すると、正規職員と非正規職員の職務内容に差があることは明白ですので、待遇に差があってもおかしくありません。
また、詳しくは書きませんが、大阪医科薬科大学事件でも同じような状況がありました。これが企業側が勝訴した五つ目の理由です。
このような五つの理由などがあって企業側が勝訴したのですが、この(特にメトロコマース事件での)結果は、企業側にとって紙一重の勝利であったとも言えます。というのも、メトロコマース事件では全員一致の判決とはならず、反対意見を書いた裁判官もいましたし、そもそもこの事案を最高裁の前に判断した東京高裁(原審と言います。)では労働者側にかなり有利な判決となっていたからです。
このようなことから、メトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件の判決でも、やはり決して非正規のボーナスや退職金が否定されたものではないのです。
次回のメールマガジンでは、更に詳細に最高裁判決の事案について説明したいと思います。
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