メールマガジンvol.94【大谷選手と松本氏の件から考える危機管理の初動の大切さについて解説】
MLBドジャースの大谷翔平選手の通訳人である水原一平氏が違法賭博に関わったとして「解雇」されたと報じられました。「解雇」と報道されていますが、「解雇」は労働契約がされている場合に行われるものです。大谷選手と水谷氏の関係は労働契約ではなく業務委託契約(民法でいえば準委任契約)だと思います。業務委託契約を相手方の不当行為で終わらせる場合、「解雇」ではなく「解除」をすることになりますので、正確には大谷選手が契約を「解除」したことになります。
なお、大谷選手側の主張からすると、6.8億円を窃盗されていたわけですから、仮に大谷選手と水原氏との間の契約が労働契約であっても当然に懲戒解雇等が認められる案件ではあります。
私は大谷選手の会見のYouTube動画を見ましたが、誠実に回答されているという印象です(なお、念のためですがこのYouTube動画が適法なものかは不明です。)。ロサンゼルス・タイムズ紙の記者は「これだけ話したのが期待以上。」とコメントしています。他方、水原氏がどうやって口座にアクセスできたのかということに疑問があるという声もあります。
この点はメジャーリーグ2球団で通訳を務めた小島克典氏によると、通訳人は球場内外での通訳のほかメディア対応、選手の家族に対しても病院同行や空港送迎などを担うこともあり、さらに食事の手配、移籍が決まれば家探し、時に銀行口座の開設や高級車の購入、納税手続きをサポートすることもあるようで、私は水谷氏が大谷選手の口座にアクセスするIDやパスワードを元々知っていた又は何らかの形で知りそれらを利用して口座に不正アクセスしたのだろうと考えています。
その他Yahoo!スポーツは「残る疑問点」として「口座から大金がなくなったのに誰も気付かなかったのか?」等を挙げています。この点は、大谷選手はスポーツ選手として史上最高の年俸額と言われており金銭には全く困っていないでしょうし、基本的に日々野球に集中していたと考えられ、銀行口座の残金を確認していなかったとしても不合理ではないと思っています。
弁護士業界では最近、「危機管理」や「不正調査」という業務が流行しています。
労働事件もそうなのですが、危機管理も初動がとても重要で初動がその事件の流れを大きく左右します。
大谷選手は今回の危機に対し弁護士に相談しながらどのように対処管理するか決めたのだと思います。そして、大谷選手は事実関係を自分の口で語り、これについてスポーツ専門サイト「アスレチック」の記者は「実際に起きたことを彼の口から説明したことがとても重要なこと。心に訴えてくる主張だった。」と述べていて、各マスコミは記者会見を概ね肯定的に評価しています。このようなことからすると、大谷選手サイドは危機管理に成功したと言えるでしょう。
翻って新年に文春砲を受けた松本人志氏は訴訟提起をしたものの記者会見を開きませんでした。松本氏の場合、現在告訴等がされ犯罪が関わって捜査がされているわけではないですから、記者会見を開くのに支障はなかったはずです。
松本氏が起した裁判の第1回の期日が3月28日に開かれたところ、松本氏はその直前の25日にX(旧Twitter)で「人を笑わせることを志してきました。たくさんの人が自分の事で笑えなくなり、何ひとつ罪の無い後輩達が巻き込まれ、自分の主張はかき消され受け入れられない不条理に、ただただ困惑し、悔しく悲しいです。」などと声明文を発表しました。
ですが、記者会見も開かずSNSでこのような投稿をしても松本氏の支持者はともかくその他の人には響かないというのが実際のところかと思います。
世論も松本氏のこのような態度に対し冷ややかな態度をとっているように感じます。松本氏の場合、裁判の結果より世論がどのような流れになるかが重要だったはずで、裁判より世論形成を優先すべきでした。仮に裁判で敗訴しても世論が松本氏に同情的であれば芸人として復帰できるからです。
そのような意味で松本氏サイドは危機管理に失敗しています。
今回の大谷選手と松本氏の件で、危機管理が上手くいくかは初動が大事であり、初動の中でも特に迅速に記者会見をすることが重要であることを再認識しました。
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