メールマガジンvol. 77【定額残業代の導入方法】
前回のメールマガジンで,定額残業代の導入が,残業代請求対策のポイントとなることについてお話ししました。
定額残業代を導入する場合,例えば現状30万円の給与の場合,それを25万円の給与+5万円の定額残業代のように設計することが多いです。ところで,このような定額残業代制度の導入は,労働者にとって労働条件の不利益変更になります。
このような不利益変更を行う場合,通常は,就業規則を変え,その上で労働条件通知書を変更します。
ところで,このように就業規則を変更したり労働条件通知書を変更したりすれば定額残業代を有効に導入できるかというと,話はそんなに簡単ではありません。
リーディングケースとして,ビーダッシュ事件(東京地裁H30.5.30)というものがありますので,この事件について簡単に説明します。
ある会社が社労士先生と相談をして,今まで年俸制としていた会社の給料体系について,年俸制を止めて,定額残業代を導入することにしました。
社労士先生が全社員について給料のシミュレーションをし,大体,通常残業時間約40時間分,深夜残業時間10時間分で定額残業代を設定すれば,定額残業代以外残業代を支払わなくてもよくなることが分かりました。
そこで,各社員について,給与の一部を定額残業代に振り分けていきました。
社員の一人に,月額40万円の社長の右腕的なポジションの管理職がいました。
この管理職については通常残業時間約40時間分,深夜残業時間10時間分で定額残業代を計算したところ,合計約13万円となり,定額残業代を約13万円としました。
この管理職は,定額残業代の分基本給が少なくなり,基本給は約27万円となりました。
この管理職が退職して,裁判で残業代請求をし,定額残業代は無効で定額残業代導入後も残業代が発生すると主張しました。
裁判所がどのような判断をしたかというと,定額残業代の導入で従業員が不利益をうけるところ従業員に十分な不利益性の説明がされていないとして,定額残業代制度への変更を無効としました。
結果,定額残業代制度の導入以降も残業代は発生し続けるとして,約570万円を会社は支払うことになりました。
このケースからも分かるとおり,定額残業代を有効に導入するには就業規則や雇用契約書を変えるだけでは足りず,労働者に定額残業代の不利益性を十分に説明する必要があります。
従業員にどのような方法で定額残業代の不利益性を説明するかは次回のメールマガジンでお伝えいたします。
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