メールマガジンvol.84【歩合給振り分け方式の残業代について解説】
運送業やタクシー業でよくある給料体系で、まず従業員への支払総額を歩合で出し、それを基本給や残業代や各種手当に振り分けるという方式があります(便宜的にこの賃金支払い方式を「歩合給振り分け方式」といいます。)。
この歩合給振り分け方式は、給料明細上は残業代を支払ったことになっていますが、残業代という名目で支払った賃金の実質は歩合なので、裁判となった場合実際に残業代を支払ったことにはなりません。歩合給振り分け方式では残業代を支払ったことにはならないとした裁判例もあります。
歩合給振り分け方式について具体的に見てみますと、例えば給料は売上の30%とされていて(歩合)、A氏の売上が120万円だったとします。
この場合、A氏の給料は総額36万円となります(120万円×30%)。歩合給振り分け方式の場合、これを基本給15万円、家族手当3万円、住宅手当3万円、残業代15万円などと振り分けていきます(これらの合計は36万円となります。)。
この給料の支払い方法の場合、形式的には残業代15万円を支払っているものの前述のとおり残業代15万円を支払ったとは(少なくとも裁判では)認められません。
この場合の残業代をどのように計算するかは色々な考えがあるところですが、36万円から家族手当3万円と住宅手当3万円を除外した30万円について通常の残業代計算方式で残業代を計算するという結論にもなりかねません。
そして仮に所定労働時間が160時間、時間外労働が100時間あったら以下の残業代が発生します。
30万÷160時間×1.25×100時間=23万4375円
これを時効にかからない3年分で考えますと、23万4375円×12ヶ月×3年=843万7500円の残業代が発生することになります。
このような多額の残業代が発生しうるというのが、歩合給振り分け方式を採っている会社(上述のとおりタクシー業や運送業が多いです。)の現実なのです。
以上のような請求をされないようにするためには、運送業やタクシー業では歩合給振り分け方式を完全歩合給制度等に変更していく必要があります。
どのように変更していくかは次回以降のメールマガジンでお話したいと思います。
- メールマガジンvol.100 【抗うつ剤の服薬の虚偽告知が解雇事由として考慮されるべきとされた裁判例】
- メールマガジンvol.99 【セクハラ事案で「同意の抗弁」は通用するか?】
- メールマガジンvol.98【カスタマーハラスメントへの対応】
- メールマガジンvol.97【取締役会による退職慰労金減額の有効性】
- メールマガジンvol.96【カスタマーハラスメントの防止対策】
- メールマガジンvol.95【大谷選手と水原氏の件から考える不正領得への対策方法について解説】
- メールマガジンvol.94【大谷選手と松本氏の件から考える危機管理の初動の大切さについて解説】
- メールマガジンvol.93【松本人志氏対週刊文春の訴訟について解説】
- メールマガジンvol.92【偽装業務委託契約のリスクについて解説】
- メールマガジンvol.91【アマゾンジャパンに関するニュース記事の考察】