メールマガジンvol.87【競業禁止期間と競業禁止場所の制限】
前回のメールマガジンで、退職した社員に顧客奪取をされないようにするための方法について述べました。
多くの会社では誓約書等を差し入れさせていて、その誓約書には「企業情報の不正使用はしません。」という条項があります。
ただ、そのような条項のある誓約書を差し入れさせても、退職した社員が顧客奪取をした場合にそれを食い止めることはできないということもお話ししました。
競業を食い止めるために有効なのは、競業禁止の合意書を結ぶことです。
具体的には、「甲(退職する社員)は乙(会社)と競合する会社に就職しない。」といったような合意書を作ることになります。
競業禁止の合意書を結ぶ際に重要なのは、
①競業禁止期間の制限をすること
②競業禁止場所の制限をすること
③顧客勧誘禁止など競業の範囲を制限すること
④代償を支払うこと
の4点です。
今回のメールマガジンでは、①競業禁止期間の制限と②競業禁止場所の制限についてお伝えします。
まず競業禁止期間の制限ですが、競業を禁止する場合にはその期間は最大1年半くらいとするのが望ましいです。
社員側からみれば、自分が元々いた業界が一番就職もしやすくまた起業もしやすいわけで、競業禁止特約はこれを制限するわけですから、この特約は憲法上の職業選択の自由を侵害するものとなります。
このような大きな制限を加える特約なので、無期限という特約では制限として強すぎて裁判で合意の有効性が争われると無効とされてしまいます(公序良俗違反(民法90条)で無効とされます。)。
そこで、期間制限が必要なのですが、判例の傾向を見ると2年だと長すぎるきらいがあり、競業禁止が有効とされる限界は1年半くらいかなと思っています。
理想的なのは1年くらいでしょうか。
1年では短いと思うかもしれませんが、1年間皆様の顧客が退職した営業社員等に接触できないとすると皆様側では十分なフォローアップができますし、やらないといけません。
上記の参考条項に期間制限を書き加えると、 「甲(退職する社員)は乙(会社)と競合する会社に『1年間』就職しない。」となります。
次に、競業を禁止する場所の制限もした方が良いです。
どの程度の範囲で制限するかは、皆様の事業の性質にもよるでしょうが、例えば社会保険労務士の先生の事務所でいえば、群馬県太田市で開業されている先生だとしたら、両毛地域(太田市、館林市、足利市、佐野市等)だけに制限する等です。
他方、他の事業者でお客様が関東一円に分布しているのであれば一都五県を制限するということも考えられます。
とにかく競業された時にインパクトが大きい地域のみの制限になるよう競業の範囲を制限してください。
上記の参考条項に両毛地域ということで場所的制限を書き加えると、 「甲(退職する社員)は乙(会社)と競合する『太田市、館林市、足利市、佐野市、桐生市及びこれらの市と隣接する町』にある会社に1年間、就職しない。」となります。
競業禁止の特約にこのような制限をしておくと、いざ競業をされた場合に実効的にこれを食い止めることができます。
どのように実効的に競業を止めるか等は次回のメールマガジンでお伝えします。
なお、競業禁止に関するオンラインセミナーを1月に行いました。こちらのアーカイブは顧問先様限定で閲覧できるようにしておりますので、顧問先様でご覧になりたい方は個別にご連絡ください。
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