メールマガジンvol.97【取締役会による退職慰労金減額の有効性】
先日、弊所の企業法務サイト内のコラムで紹介させて頂いたテレビ宮崎事件の最高裁判決が令和6年7月8日に言い渡されました。同コラムでも述べましたが、事案の概要は次のとおりです。
【事案の概要】
テレビ宮崎の前社長が、税務調査などで、
①社長在任中の出張で社内規定を上回る宿泊費を計上
②CRS(企業の社会的責任)事業で過大な支出
をしていたことが判明しました。
テレビ宮崎は前社長が会社に損害を与えたとして、本来3億7300万円支払われるはずの退職慰労金を5700万円しか支払いませんでした。
前社長はこれを違法だとしてテレビ宮崎に2億350万円を支払えと提訴しました。
一審宮崎地裁と二審福岡高裁宮崎支部では、前社長の請求を認め、会社に対し前社長の請求どおり2億350万円の退職慰労金の支払いを命じる判決を出していました。
しかし、今回、最高裁は、一審二審の判決を取り消し前社長の請求には理由がないとして前社長の訴えを退けました。会社側の逆転勝訴となったわけです。
最高裁の判断の骨子は以下のとおりです。
会社には、退任取締役の退職慰労金の算定基準などを定めた内規がある一方で、取締役会には、退任取締役のうち「在任中特に重大な損害を与えたもの」に対し、慰労金の額を減額することができるとする定めがありました。なお、減額の範囲や限度については特に規定されていませんでした。
最高裁は、
①退任取締役が会社に特に重大な損害を与えたという評価の基礎となった行為の内容や性質
②その行為によって会社が受けた影響
③退任取締役の会社における地位等
の事情を総合考慮して判断をすべきだとした上で、取締役会には退職慰労金を減額するかどうかを判断するに当たり広い裁量権を有するべきである、と判断しました。
本件では、取締役会において相当程度実質的な審議が行われており、裁量権の逸脱や濫用があるとはいえず、前社長の退職慰労金の額を5700万円とした取締役会の判断が不合理であるということはできない、と結論付けました。
なお、この判断は、5人の裁判官全員一致の意見でした。
この最高裁の判例からすると、裁判所としては、退職慰労金の減額について取締役会には広い裁量があると考えているものと思われます。
取締役に違法行為があった場合の退職慰労金の減額についてのリーディングケースとなる判例なので、不正行為を働いた取締役についてはこの判例を基に減額を検討してみてください。
なお、宮崎テレビのように、減額については「在任中に会社に特に重大な損害を与えたものについては、退職慰労金の額を減額することができる」という規定が必要なので、この規定は取締役の退職慰労金の内規には入れておくと良いと思います。
- メールマガジンvol.100 【抗うつ剤の服薬の虚偽告知が解雇事由として考慮されるべきとされた裁判例】
- メールマガジンvol.99 【セクハラ事案で「同意の抗弁」は通用するか?】
- メールマガジンvol.98【カスタマーハラスメントへの対応】
- メールマガジンvol.97【取締役会による退職慰労金減額の有効性】
- メールマガジンvol.96【カスタマーハラスメントの防止対策】
- メールマガジンvol.95【大谷選手と水原氏の件から考える不正領得への対策方法について解説】
- メールマガジンvol.94【大谷選手と松本氏の件から考える危機管理の初動の大切さについて解説】
- メールマガジンvol.93【松本人志氏対週刊文春の訴訟について解説】
- メールマガジンvol.92【偽装業務委託契約のリスクについて解説】
- メールマガジンvol.91【アマゾンジャパンに関するニュース記事の考察】