メールマガジンvol.100 【抗うつ剤の服薬の虚偽告知が解雇事由として考慮されるべきとされた裁判例】

あるクリニックで採用された精神保健福祉士が、面接の際に服薬の有無を尋ねられ、服薬はないと回答したものの、実際には不安神経症で通院し、抗うつ剤であるデパスを服用していたことが採用後に発覚しました。

 

クリニックが職員に対し面接時に服薬について告知しなかったことは懲戒免職事由にあたると告げたところ、職員は懲戒免職をされるとその後の就職で不利益を被ることがあると思い、退職届を提出しました。

 

もっとも、職員は後になって退職の意思表示は強迫によってなされたものなので退職の意思表示を取り消すとして、クリニックを提訴しました。

 

裁判所は、クリニックは、
①職員が精神病に罹患している場合、患者との間で相互の病状を悪化させる可能性があること、
②採用された場合は職務上自動車運転を要するところ、抗精神病薬のうちには自動車運転が制限されるものが多いこと、
が認められることから面接時に服薬について質問したのであって、職員の服薬の不告知は虚偽告知にあたると認定しました。

 

その上で、この虚偽告知は就業規則の「重大な経歴および病歴を偽り採用されたとき」に該当し、解雇事由として考慮されるべき事情にあたるとしています。

 

結論としては、クリニックは相応の根拠があった上で懲戒免職事由があると考えて職員に退職の勧告をしたもので、クリニックによる退職勧告は職員を畏怖させようとしてしたものとは認められないし違法性があるとも言えないから強迫行為にはあたらないと判示され、退職の意思表示の取消しは認められませんでした。

 

この裁判例での重要なポイントは、業務上必要性があれば会社は精神疾患の有無を面接時に質問できますし(業務上の必要性があると言える場合がほとんどかと思います。)、そこで虚偽告知があれば解雇する際の一つの事由になるということです。

こういった事例で使用者側に有利な判断がされた珍しい裁判例かと思います。

雇用したところその社員が精神疾患で勤怠不良となり困っているという企業様が一定数いらっしゃいます。

 

この裁判例を踏まえますと、採用にあたっては面接の際に病歴や服薬の有無を聞いてそれを記録に残しておくことが重要です。

記録が残っていれば、後に病歴の虚偽告知が分かった場合で社員の勤怠が不良な時は適正な解雇をすることが可能となってきます。

 

 


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