メールマガジンvol. 69 【定年後再雇用の場合の同一労働同一賃金】

定年後再雇用の場合の労働トラブルが最近注目されています。

 

昨年、名古屋自動車学校事件(令和2年10月28日判決)で、定年再雇用前と再雇用後で職務内容が同一の場合に基本給及び賞与が6割を下回ると違法という判決が出ました。

 

この事件は、自動車教習所の教官が定年したのち再雇用され、給与水準が定年前の5割を下回り8万円台等になっている(新卒よりも下回る)のは、同一労働同一賃金の法制度に違反するとして、労働者が会社を訴えたものです。

 

この裁判例の事案が起きた当時、同一労働同一賃金の法規制は労働契約法20条により定められていました。

 

社労士先生はご存じかと思いますが、当時の労働契約法20条は、働き方改革により、現在ではパートタイム・有期雇用労働法8条に変わっています。

 

それと共に、パートタイムだけに適用されていた法律が改正されて、パートタイム・有期雇用労働法9条が創設されました。

 

パートタイム・有期雇用労働法8条と9条を比べると、9条は「正職員と有期雇用労働者の職務内容や配置が同一の場合に差別的取り扱いを禁ずる」と規定されていて、9条の方が8条より厳しい規制内容となっています。

 

今後、名古屋自動車学校事件と似たような事例の場合、定年後再雇用の方の同一労働同一賃金違反がパートタイム・有期雇用労働法8条で判断されれば、名古屋自動車学校事件と似たような判断となるでしょうし、同法9条で判断されれば(労働者側は必ず9条の適用を主張してきます。)、名古屋自動車学校事件より厳しい判断となるでしょう。

 

この論点については、弁護士の中では9条が適用される可能性があると述べている方もいますが、私は8条の問題かと思います。

 

なぜなら9条は定年後再雇用ではなく、有期雇用に着目して差別している時に適用される規定であると考えるからです。

この点は、同一労働同一賃金の第一人者である東京大学の水町教授も著書でそのように述べています*。

 

パートタイム・有期雇用労働法施行後の定年後再雇用の方の同一労働同一賃金は同法8条で判断され、その規制のレベルは旧労働契約法20条と同様です。なので、名古屋自動車事件のような事例の事件が起きた場合、同裁判例と似たような判断になるのではないかと予想しています。

 

また、名古屋自動車学校事件は控訴されていて、場合によっては控訴審判決が出るかもしれません。控訴審判決が出た場合、その内容は実務にかなり影響を与えると考えられます。

 

実は、定年後再雇用の同一労働同一賃金の訴訟は現在それほど多くはありません。

これは、会社に長年勤めてきたので会社と争いたくないという心情が働いてのことだと思います。

ですが、会社と労働者との関係が段々と希薄化している傾向もありますので、今後、定年後再雇用の方の争いも増えることが予想されます。

 

 

 

*水町勇一郎『同一労働同一賃金のすべて』新版, 有斐閣, 2019年, 117ページ.

 


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