メールマガジンvol.90【重要最高裁判決の解説―定年後再雇用された方の賃金制度】
令和5年7月20日に、定年後再雇用された方の賃金制度に関する最高裁判所の判決が出ました(名古屋自動車学校事件最高裁判決)。
事案を簡単に説明します。自動車学校の教習所を経営する会社で教習指導員をしている社員が60歳で定年退職しました。
会社は、この社員らを、定年後嘱託社員として1年契約で再雇用しました。
嘱託の条件は、基本給は正社員時の45%弱、賞与は正社員時の約35%、皆勤手当、精励手当、家族手当は不支給というものでした。嘱託社員2名がこれらの正社員との待遇差が不当だということで、会社に対して損賠賠償請求の裁判を起こしました。
この裁判で一審の裁判所である名古屋地方裁判所と二審の裁判所である名古屋高等裁判所は、次の①から④のとおりに判断しました。
①基本給が定年前の60%を下回るのは違法である(会社側に不利)
②賞与が基本給60%を基準とする算定を下回るのは違法である(会社側に不利)
③嘱託社員に精励手当を支払わないのは違法である(会社側に不利)
④嘱託社員に家族手当を支払わないのは適法である(唯一会社側に有利)
このうち、③と④は最高裁判所では争いの対象とされず、名古屋高等裁判所の判断が確定しています。
最高裁判所で争点とされたのは①と②で、争点について誤解を恐れずに分かり易く述べると、会社が嘱託社員の基本給や賞与を定年前の額の60%以下にした場合に違法となるかです。
結論として、最高裁判所は60%を下回るのは違法とした名古屋高等裁判所の判断を否定し、裁判を名古屋高等裁判所でやり直せとしました。
私の予想では、名古屋高等裁判所のやり直し裁判では仕事内容が同じで基本給や賞与が50%くらいでも事案によっては問題ないということになり、会社側が勝つと思います。
名古屋高等裁判所が判断していた「基本給も賞与も60%にするのは違法」というのはわかり易い基準でした。社労士先生等からするとお客さんから「嘱託社員の給料はどの程度にすればいいの。」と聞かれたときに説明がしやすいともいえます。
反面、企業にとって「嘱託社員の基本給等は少なくとも定年前の60%」というのは決して小さい負担ではありません。私はかねてから嘱託社員の基本給等を定年前の60%以下にできないというのでは企業運営として厳しすぎると感じていました。
日本ビューホテル事件(東京地裁平成30年11月21日)の判決は会社が基本給を定年前の50~54%としたのを適法としています。日本ビューホテル事件の判決もありますので、企業経営が厳しい場合には、基本給等は定年前の50~54%くらいまで下げてもやむを得ないのではないかと思っています。
名古屋自動車学校事件のやり直し裁判の結果が出たら、メールマガジンでご報告させていただきます。
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