メールマガジンvol.91【アマゾンジャパンに関するニュース記事の考察】
10月4日のニュースで、アマゾンジャパンの運送会社から委託され、配達中にけがをした個人事業主の60歳代男性が、横須賀労働基準監督署から労災認定をされたというものがありました。
(この件に関する日本経済新聞のインターネット記事)
個人事業主は本来労災の対象外で負傷をしても労災認定はされないはずです。私も個人事業主なので仕事中に怪我をしても労災の対象にはなりません。
ですが、実際は雇用なのに業務委託として働く方がそれなりにいて、そのような方の補償が問題視されていました。
本件では、当該労働者(男性)は、配達の実態から運送会社の指示で働く「労働者」にあたると判断されています。この方は2019年にアマゾンジャパンの配達を担う運送会社と業務委託契約を締結しました。男性はアマゾンジャパンから提供されたアプリで配送先などの指示を受け(アマゾンジャパンと運送会社のどちらから指示されていたかは不明)、1日100件以上の配達をこなし、運送会社から出勤日や始業時間について指定をされていました。
男性は、ほぼその運送会社のみの仕事をしていて仕事を断ることもなかったのでしょう。
このような状態ですと、形式的に業務委託契約としていても実質的には労働契約をしていたと認定されてしまうことになります。
偽装業務委託(請負)の一パターンともいえます。
この男性の場合は労災が問題となっていますが、偽装業務委託はあらゆる労働問題に関わってきます。
例えば、残業代です。業務委託であれば残業代という問題はおよそ発生しませんが、業務受託者が実際のところは労働者であったということになると、企業との間で労働契約が発生していることになり、残業代の問題も出てきます。契約書がないから労働契約が発生しているなんてあり得ないと思う方もいるかもしれませんが、業務受託者から訴えられると、裁判所により、業務受託者との間で労働契約が成立していると認定されることがあり得ます。
労働者と認定されると思いもかけず残業代が発生してしまい、業務受託者が長時間の作業をしている場合、莫大な残業代を請求されかねません。
また、雇止めも問題となります。業務委託であれば3カ月等の契約にして期間が終われば何の問題もなく契約終了とできます。しかし、業務受託者が実は労働者だったということになると期間が終わったから契約終了といっても雇止めの問題が出てきて、場合によっては契約終了にできない事態になり得ます。
このように形式的には業務委託となっていても実際のところは労働者という場合には様々な労働問題が発生してしまうのです。
業務受託者を労働者と認定されないようにする方法は2つあります。
①業務委託をやめ、改めて労働契約とする
思い切った方法ですが、昨今の人手不足からするとちゃんと仕事をしてくれる業務受託者は労働者として会社で抱え込むというのは一つの方法です。
②労働契約と認定されないよう業務委託の実体をもたせる
①とは逆に当該契約を業務委託契約の方に寄せていく方法です。始業と終業を自由とする、当社専属にしない(他の会社の仕事も請けてもらう)、仕事のやり方について細かい指示をしない等を徹底すれば労働者と認定される可能性はかなり低くなります。
本来は労働者なのに形式的に業務委託としている会社さん等については思いもかけず残業代請求などをされるリスクがありますので、今回のアマゾンジャパンの事件を機に備えていただければと思います。
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