Vol.64【同一労働同一賃金の最近の動向 その2】
【同一労働同一賃金の最近の動向 その2】
先月の13日に、正規職員と非正規職員(フルパートのアルバイト)との間のボーナスと私傷病の有給休暇の格差が争われた大阪医科薬科大学事件の最高裁判決が出ました。
事例を説明しますと、使用者は医科薬科大学です。
事務系正規職員は200名であったのに対し、アルバイト職員は150名です。
訴えを起こした労働者は、大学の教室に配置されていました。
大学では、契約職員から正規職員への登用制度がありました。
契約職員には正規職員の約60パーセントのボーナスが支払われていました。また、正規職員には業務外で病気や怪我をした場合の休職の際、一定期間有給とされていました。
しかし、訴えを起こした職員を含むアルバイト職員にはボーナスは支払われておらず、業務外の病気や怪我の場合の有給休職もありませんでした。
因みに、当該労働者の年俸は新規正規職員の約55%でした。
当該労働者は2年くらい勤務した後、1年くらい休職し退職しました。
このような状況の下、当該労働者は、正規職員との格差がおかしいとして、労働契約法違反で使用者を訴えたのです。
最高裁判所は、正規職員へのボーナス不支給と有給休職不支給を合法としました。言い方を変えると、この事案で、裁判所は正規職員とフルパートの一定の格差を許容したとも言えます。裁判官5名全員一致の結論となっています。
この結論は極めて妥当だと思います。
判決の理由は以下のとおりです。
まず、判決は、ボーナスなどが支給される目的を、大学で長期間勤務してくれる「正規職員の確保」としています。
「正規職員確保」が目的ですから、非正規職員にはストレートにボーナスの目的が当てはまらないということになります。
その上で、正規職員と非正規職員では仕事の内容にも相当な差がありました。
正規職員は病理解剖の際の遺族対応や英文文献の編集などの業務をしており、これらはかなり高度な業務といえます。フルタイマーはこれらの業務はしていません。
また、正規職員には配置変更の可能性がありましたが、非正規職員には配置変更の可能性もありませんでした。
これらの事情からすると、正規職員と非正規職員の立場には大きな差があり、さらに正規職員への登用制度もあったことも踏まえると、ボーナスを不支給とすることは不合理ではないとされたのです。
実は、この事案では、大阪高等裁判所は、フルタイマーに正規職員の賞与の60パーセントを支払うべきだとの結論を出していました。
高等裁判所がこの結論を取ったのは、契約職員(有期の月給制の職員。訴えを起こしたのは時給制職員です。)には正規職員の80パーセントの賞与が支払われていたことが大きかったように思います。
高等裁判所がこのような判断をしたのも理解できますが、同一労働同一賃金は、正規職員と非正規職員との間の比較の問題であり、本件は、正規職員と非正規職員の間には職務内容等に大きな差がありますので、やはり最高裁判所の判決内容が妥当だと考えます。
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