Vol.65【同一労働同一賃金の最近の動向 その3】

【同一労働同一賃金の最近の動向 その3】

前回のメールマガジンでは、先月の13日に出された、正規職員とフルパートとの間のボーナスの格差等が争われた大阪医科薬科大学事件の最高裁判決について説明しました。

今回のメールマガジンでは、正規職員と非正規職員との間の退職金の格差が争われたメトロコマース事件について解説いたします。

この事例における使用者は、東京メトロの子会社であるメトロコマース社です。

裁判を起こした原告は4名(最高裁判所まで争ったのは3名)で、それぞれ地下鉄の売店で、商品を陳列したりレジを打ったりなどの業務をしていました。

原告4名はいずれも期間が1年以内の有期雇用契約の非正規職員(いわゆる契約社員)で、雇用契約は原則として更新されていて、それぞれ通算の契約期間は10年前後となっていました。

メトロコマース社ではこのような売店業務にあたる正規職員(いわゆる正社員)もいました。

正規職員が行う売店業務と非正規職員が行う売店業務は、仕事内容は同じです。

ただ、正規職員には、通常の売店業務の他に、①欠勤者や担当不在店での代行業務、②複数店の統括・指導・サポート処理などを行うエリアマネージャー業務がありました。

正規職員には退職金が支払われていましたが、非正規職員には退職金が支払われていませんでした(厳密には退職金が支払われるカテゴリーの非正規職員と支払われないカテゴリーの非正規職員がいました。)。

非正規職員には、上位の非正規職員や正規職員への登用制度がありました。

このような状況の下、非正規職員4名が、正規職員との退職金等の格差がおかしいとして、労働契約法違反で会社を訴えたのです。

この事件で、高等裁判所は、退職金について非正規職員に少なくとも正規職員の退職金額の4分の1を支払わないと違法と判断していました。

しかし、最高裁判所(裁判官5名の小法廷と呼ばれるもの)は、正規職員への退職金不支給を合法としました。言い方を変えると、この事案で、正規職員と非正規職員の退職金の格差を許容したのです。

因みに裁判官1名が反対意見を出しています。

この結論は妥当だと思います。

最高裁判所が非正規職員への退職金の不支給を合法と判断した理由は以下のとおりです。

まず、判決は、退職金が支給される目的を、正規職員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着としています。

正規職員の確保や定着が退職金の目的ですから、非正規職員には退職金の目的がそのままには当てはまらないということになります。

その上で、正規職員と非正規職員では仕事の内容にも一定の差がありました。具体的には先ほど述べたとおり、正規職員は通常の売店業務の他に、①欠勤者や担当不在店での代行業務、②複数店の統括・指導・サポート処理などを行うエリアマネージャー業務をしていました。

また、正規職員には配置変更の可能性があり売店業務以外にも従事する可能性がありましたが、非正規職員は職務内容の変更の可能性はありませんでした。

さらに、非正規職員は正規職員登用制度を利用して正規職員となれば退職金の支給を受けることが可能でした。

これらの事情などから、正規職員と非正規職員の立場には相当程度の差があったので、最高裁判所は退職金が支給されなくても不合理でないとしたのです。

上述したように5名の裁判官のうち1名は反対意見を出していますし、やはり上述したように高等裁判所は退職金の4分の1は支払わないと違法となるという結論を取っていたので、判断は難しい事件だったかと思います。

今回は企業側が退職金については勝訴できたわけですが、場合によっては退職金について企業側が敗訴することもあり得ます。

仮に訴えられても勝訴できるように、また、そもそも訴えられないように、賃金制度の改革や就業規則の変更は必須であると考えます。

今回の一連の最高裁判決を含めた最新の同一労働同一賃金の実務について、社会保険労務士の先生向けの勉強会および、企業経営者様向けのセミナーを下記のご案内のとおり行います。

勉強会では、どのようにすれば紛争や敗訴のリスクを減らせるかを具体的に解説いたしますので、是非ご参加ください。


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