メールマガジンVol.66【同一労働同一賃金の最近の動向 その4】
【同一労働同一賃金の最近の動向 その4】
前回のメールマガジンでは、非正規社員に退職金が支払われていなかったことが問題とされたメトロコマース事件について解説しました。
今回のメルマガでは、日本郵便事件についてお伝えしたと思います。
この事件の原告は、時給制契約社員で郵便外務業務をされていました。外務業務というのは郵便物の配達等です。
郵便物の配達は時給制契約社員だけでなく、正社員もしていました。
そして、正社員には様々な手当が支払われていたのですが、時給制契約社員等には一部しか支払われていませんでした。
そこで、時給制契約社員等が手当の不支給はおかしいとして、平成25年に全国3つの裁判所で裁判が起こされ、昨年の10月に判決が出たのです。
最高裁での争点は、1.扶養手当、2.有給の病気休暇、3.夏期冬期休暇、4.年末年始勤務手当、5.祝日給を時給制契約社員に支払ったり与えたりしないといけないかです。
結論として、最高裁はこれら全てについて時給制契約社員等にも支払わないといけないとしています。簡単にどうしてそのようになったかを説明いたします。
まず、1.扶養手当、2.有給の病気休暇は、これらの支給は正社員を長期間継続的に雇用することに目的があるとされました。このような手当等があれば、正社員として長く勤めたいと思いますよね。
そして、日本郵便は、時給制契約社員を継続的に雇用することを前提としており、実際に裁判を起こした方達はいずれも10年等相当期間働いていましたので、1.扶養手当と2.有給の病気休暇の趣旨は当てはまるとされました。
そのようなことから、1.扶養手当、2.有給の病気休暇については、この裁判の時給制契約社員に対し支給する必要があるとされました。
次に、3.夏期冬期休暇については、労働から離れる機会を与え心身の回復を図ることに趣旨があるとされました。心身の回復を図る必要があるのは時給制契約社員も同じであり、この休暇についても時給制契約社員に与えなくてはならないとされています。
4.年末年始勤務手当、5.祝日給(年末年始勤務手当のようなものです)については、裁判所は支払われている理由を多くの方が休んでいる年末年始に働いたことの対価であるとしました。
そして、この趣旨は時給制契約社員についても及ぶとして、これらも支払うべきとされています。
上記の説明では分かりにくかったと思いますが、1.から5.は二つのグループに分けることができます。
一つは、1.扶養手当、2.有給の病気休暇のグループ、
もう一つは、3.夏期冬期休暇、4.年末年始勤務手当、5.祝日給のグループです。
1.、2.のグループは相当期間働いた時給制契約社員に対し認められると考えられます(例えば5年くらい働いた場合等。)。
言い換えれば、勤務したての頃は非正規社員には支給しなくても問題とはなりづらいです。
他方、3.、4.、5.のグループは勤務期間にかかわらず、支払わなければならないものであると思われます。
非正規社員に手当を支払わなくてはいけないといっても、手当の種類によってはいつから支払うべきかは異なってきますので、どのような支払い方が最適であるかをよく調べる必要があります。
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